BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



14

  日も差し込んで、グラウンドのライトの光が消えていた。フェンスの中には、無数の石ころと、一人の少年の姿があった。
 前沢忠文(男子十六番)は、昨日のゲームスタートの合図から、ずっと走り続けていた。忠文が東側の集落から走ってグラウンドの方に 行こうとしたときだった。耳の中を掃除するかのような音が聴こえた。そう、だれが聴いても分かるような音だった。 それが忠文に恐怖を与えた。既に殺る気の人間がいる。殺らなきゃ・・・殺られる。
 昨日から走りっぱなしで、水は少し飲んだぐらいで、パンや武器の確認はしてなかった忠文は、やっと落ち着ける場所があったと 思い、グラウンドのベンチに座り、まずは支給されていたパンをむしゃむしゃ食べ、デイパックの中身を見ようとした。
 「動かないで!」
 ――――え?――――
 突然忠文の首に、 銀色に光るナイフが突きつけられていた。――――なに?後ろにいたのか?――――その時忠文は気づいた。自分の首に突きつけられているナイフが、 ぶるぶると震えている。しかも声からすると女子!忠文はこの時、自分の後ろにいる人間が、殺る気ではない、ゲームにのってない人間だと 判別した。ならば俺が殺してやろう・・・忠文は殺気立った。
 「そ、そのまま手をあげて・・・」
 自分のなかで、今の言葉が合図だった。忠文は、手を上げ、「お前が誰だかわかんないけど、俺はこんなゲームやりたくねぇんだ。 なぁ、一緒に行動しないか?」と言い、相手の反応を待った。
 「え?・・・それ、本当に言ってるの?」
 ――――くくく・・・バカな女だ。死ね、タコがぁ――――忠文の後ろにいた人間(女子)が、一瞬手の力を抜いたような感じがしたその時だった。 上にあげていた手を、忠文の後ろにいた女子の首を両手でつかんだ!掴むとすぐさま自分の体を固定し、後ろの人間の体ごと持ち上げた。そしてそのまま 自分の目の前に、その後ろにいた人間を地面に叩きつけた。
 「ドンッ」と、小さな砂埃がおこり、忠文の目の前に、後ろにいた女子の正体が姿を現した。 ――――小松だ!小松亜紀だ!――――忠文はニヤリとした。とっさに起こった出来事に、慌てふためく小松亜紀(女子八番)は、 忠文に投げられた時に落ちた、支給武器であるバタフライナイフを探していた。しかしそのナイフは、既に忠文が足で蹴って、亜紀からは、数メートル 先に飛んでいた。
 「やめて!おねがい前沢くん!殺さないで」
 今の言葉も、既に忠文の中でのプログラム通りだった。そして次は、自分の番だと言わんばかりに「小松・・・へへ。お前はバカだねぇ〜、 この俺を殺さなかった事をあの世で後悔しろ!」と忠文が最後のセリフを言った、その時だった。とっさに体の向きを変え、亜紀が逃げたのだ。 ――――やばい、これは予想外だ。ちくしょう――――とっさに追いかけようとしたが、忠文は足にあるデイパックに気がついた。そう、支給武器が何かまだ見てなかったのだ。 吉とでるか凶とでるか・・・それで小松を殺せるか決まった。
 「カチャ」
 デイパックの中は、ショットガンだった。運が悪かったかもしれない。今から弾を込めたんじゃ、逃げられる!忠文はショットガンをその場に捨て、 全速力で亜紀を追った。亜紀も後ろを振り返り、忠文が追ってきてるのに気づき、小さな悲鳴をあげながら逃げていた。しかしその時だった。
 「パンッ」
 一瞬であるが、ものすごい大きな音で、グラウンド内に銃声が響いた。驚いて忠文は立ちどまり、周りを見渡したが「きゃあ」と、忠文の 標的でもある亜紀が、突然足を押えて倒れたのだ。――――ん?どうしたんだ――――その時忠文の眼中に飛び込んできたのは、 忠文がよく知ってる顔の人間が、亜紀から数メートル向こう側に立っていた。
 「おーい、忠文!大丈夫か?」
 その声を聞き、忠文は亜紀が倒れてる所に走った。徐々に近づいていくうちに、小松亜紀は右足から血を流して叫び声を少しあげていた。
 その小松亜紀を撃った人物は、何事もなかったような顔をして、忠文に微笑みをくれている小学校の時からの友達、田中潤平(男子十二番)が、 右手にしっかり銃を持っていた。
 「潤平!どうしたんだよ」
 忠文は真っ先に潤平ではなく、倒れて苦しんでいる亜紀を見た。
 「ずっと見てたんだ。忠文と小松がなにかやってるところ。そんで忠文が危なくて俺が行こうかと思ったが、忠文が小松を取り逃がしたみたい だから、足を撃っといたぜ」
 潤平は忠文と同じく、倒れている亜紀を見つめた。
 ――――こいつもバカな奴だ。俺を撃ってればいいものの、この場でも俺を友達と思ってやがるぜ。へへ。それじゃあいい事思いついたぞ。一発 脅かしてやる―――― 忠文は亜紀にもっと近づいた。近づくと同時に、部活で鍛えた柔道の技をかけ始めた。「うっ」と、小松亜紀の声がしたが、気にすることなく忠文は、 亜紀の顔に右腕で絞めをして、逃げないように自分の体を亜紀の体の上に乗せ、身動きできない状態にした。
 亜紀も息ができない為、必死に手や足をばたつかせた。しかしそれも一瞬の出来事だった。忠文が思いっきり腕に力を入れた時だった。 クイッと体が止まり、亜紀の手や体の力が抜けた。――――とうとう殺した。人を殺した。そう、俺はなんだっていい、殺らなきゃ殺られるんだから―――― 亜紀から腕を外し、忠文は立っていた潤平を見た。
 「す、すごいね忠文、なんで銃で殺さなかったんだ?俺が貸してやるのに。そう、そうだ。俺達組まない?なっ、俺銃持ってるから強いぜ、へっ」と、 潤平の少し脅えた声と姿が、忠文には見えた。――――思った通りだ。さあ友よ、ヘブンズゲートはもうすぐですよ――――忠文は冷静な目で潤平を見ながら、 徐々に近づいていった。それに少し驚いたように、潤平も持っていた銃を忠文に構えて、「来るんじゃねぇよタコがぁ!これ以上近づいたら、撃つぞ! も、元々てめぇと仲間になるなんて嘘だよ!」と激情した。

 忠文は銃なんてものは、さほど怖くはなかった。家は代々伝わる強神会の空手家で、道場にはさまざまな有名な空手家が生まれている、 忠文の父は道場の館長でもあり師範代でもあるが、一人息子の忠文も空手に関しては、父から絶賛を買うほど強かった。そんな忠文には、接近戦に銃は 逆に無駄な物だと言う信念があった。
 「潤平、俺もお前となんか、仲間にはなりたくねぇよ!」
 一瞬、ほんの一瞬、忠文の蹴りが潤平の右手に当たり、潤平の銃が遠くに飛んだ。
 「てめぇ」
 とっさに潤平も忠文に殴りかかろうとしたが、素早く避けられ、忠文の蹴りが潤平の脇腹にあたり、腹にすごい激痛が走った。忠文の蹴りは半端ではなかった。 まるで150キロのスピードで、野球ボールが当たったような(体験した事はないが)痛さだった。 潤平はその場で脇腹を押えて蹲ったが、忠文の攻撃は終わっていなかった。
 「せいっ、やっ」
 掛け声と共に、またあの速い忠文の足が、今度は頭に向かってきた。 ――――やばい!――――潤平は避けようと試みたが、やはり速すぎて、モロに喰らってしまった。
 「がぁ」
 これも痛い!潤平は片手で忠文にやられた所を押えて、バタンとその場に倒れた。既に意識が朦朧としていて、何が起こってるのか分からなかった。 ただ、自分の頭から、熱い液体が出てるのが分かった。そして、忠文が潤平の顔に腕をまわし、絞めてきたのも分かった。しかしその後は・・・。
 沈黙が流れた。亜紀のように潤平は悲鳴を上げることなく、忠文の腕の中で、人生の幕を降ろした。忠文は、2つの死体を見つめ、息をしていないか チェックをすると、潤平がもっていた銃を拾いに行き、亜紀と潤平のデイパックの中身をあさった。合計パン3つと、水1つ、拳銃1つ奪った。 少しため息をつきながら、もと居たベンチに戻った。なにか仕事をやった気分で、心の中で、父であり師匠である人間に「父上、 俺は間違っていないよな。俺はどうしてもこのゲームに勝って、強神会の後を継がなきゃならないんだ」と話した。
 忠文はデイパックに荷物を詰め、肩にショットガンと、潤平から奪ったワルサーP99(銃に、名前が刻まれていた)を右手に持ち、またどこかに 走っていった。グラウンドに死体2つを残して・・・。

【残り32人】




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