BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



15

  「ピンポンパンポーン!6時だよ〜ん。鬼月先生の放送の時間だぞ〜」
 その大きく、むかつく声が、診療所のベッドに届いた。ああ、やはり夢ではなかったのかと、眠い目をこすりながらその茶色い髪を 掻き毟りながら、眠りから覚めた男がいた。
 「みんな元気かー?すっかり明るくなって、こんなにいい殺し合い日和はないぞー。では死亡者の発表をするぞー」
 さっきまでの晩御飯・・・!いいや違う、今いるのは現実だった。

 武藤兼光(男子十八番)は、ベッドから飛び上がると、まず腕時計の針を見た。6時・・・15分だ!ベッドの横に置いてあった荷物から、島の地図を出した。そう、昨日の3時にこの診療所に 着いた。支給武器は長いスコープ付きのスナイパーライフルG3だったため、至近距離での戦闘には不利だった。しかし何とか銃で脅せる事はできるだろうと、 慎重に診療所の扉を開けた。
 中には誰もいなく、埃が充満していたぐらいだった。誰かが中にいないか、診療所の隅から隅まで調べたが、やはり兼光の他には誰もいなかった。 そう、何とか一息つける場所ができた。ふう、と長いため息をつくと、診療所のありとあらゆる扉にカギをかけた。入り口から裏扉や窓まですべて。
 安心が不幸を呼んだのか、強烈な睡魔が襲ってきた。その睡魔は、外見とは裏腹に、すごいやさしい声で話し掛けてきた。早く寝なさい。さぁ、眠れば すごく楽ですよ。
 なにが何でも寝るのもか・・・とは思ったが、診療所にはカギをかけてある。しかも銃声は聞こえない。時折窓のカーテンを少しめくり、外の様子を 見たが、誰もいなかった。これもいけなかったのか、安心しすぎて、腹まで鳴りやがる。即座にデイパックから支給されていた水とパンを、飲み食いした。
 あまりうまい物ではないと分かっていたのだが、その時はすごくうまかった。学校でも、サッカー部のエースと言われている兼光だったが、 さすがに診療所にたどり着くまでの、飲まず食わずはつらかった。喉はからからで、汗も全身から溢れるように出た。Tシャツもビショビショだった。
 午前3時半、食う物も食べて、飲むものも飲み、腹がいっぱいになった。しかしそれは睡魔を強力にする薬でもあった。視界がぼやけて、 目が白い膜で覆われ、あまり目の前が見えなかった。もうだめだと、兼光はとうとう診療所のベッドで横になった。いや、そのまま眠ったらしい。
 このままずっと永久の眠りに就きそうな感じだった。眠ってる間に、誰かが来るかもしれない。しかしそんな事など考える暇なく、兼光は眠りに就いたのだ。
 場面はすぐに変り、兼光の前にある光景が映し出された。それは自分の家の風景だった。
 「恵〜、早く席に着きなさい」
 目の前には、いつも見る顔ぶれが並んでいた。母が妹の恵を呼び、父は新聞を読んでいて、ばあちゃんは死んだように、じっとして恵が来るのを待っていた。
 そして当の本人は、テレビをじっと見ていた。
 どたどたと階段から降りてくる恵に対して、母が「はやく席に着きなさい、おばあちゃん待ってくれてたのよ」と叱り、おばあちゃんは「 まあまあ」と言い。それからいつもの家族揃っての晩御飯が始まる。今日のおかずは何か見てみると、好物のから揚げだ!よっしゃ。
 家族全員で「いただきます」と言ったすぐに、おかずのから揚げを箸でつついた。しかしそのから揚げを口に運ぶ手前の所だった。
 「・・・ピンポンパンポーン・・・」と、なにやら男性の声が、家の中で響いた。父の声ではない若い男性で、やけにテンションが高い。それが目覚めの きっかけだった。目を開け、すぐに入ってきた光景は、なにやら天井と、薬品の匂いだった。それに誰かの声。
 頭がすぐにフル回転した。――――夢から覚めた俺・・・ここは現実、診療所。その横にある椅子には、乾いたTシャツ・・・。それでもってゲーム・・・殺し合いのゲーム・・・この声は 絶対聞かなければならない。鬼月・・・むかつく――――

 鬼月の放送は、聞いてると腹が立つが、聞かないわけにもいかない、聞かなきゃならなかった。自分が眠ってる約3時間の間に、一体何人のクラスメイトが死んだのだろう。 眠る前の午前1時の放送では、3人の人間が死んでいた。村瀬淳也・・・くそっ、もう始まってるのかよ。 友達の伊藤真司や、前沢忠文、並木隆・・・牧野つくし・・・いや、なんで牧野が出てくるんだ??まあいい。それに、禁止エリアってのも要注意だ。 いつここが(診療所)が禁止エリアにされるか分からないからな。
 「え〜、では女子から発表するぞ。え〜っと女子八番小松亜紀だ。女子は以上。次は男子ー。男子は十二番田中潤平、十三番並木隆、以上だ」
 な、なに?隆だと!?
 「続いて禁止エリアを発表するぞ〜、メモのご用意じゃなくて、地図のご用意はいいか〜?では言うぞ。 え〜、午前8時からB=3、午前10時からF=2、午前12時から、I=6だ。よし、みんな書いたか〜?グレイトな殺し合い頼むぞ〜。では先生忙しいので、これにてドロン!」
 なにがドロンだ糞がぁ。しかし、隆が死んだ?嘘だろおい・・・ちくしょう。殺した奴はゆるさねえが、そんな放送でも、冷静に地図に印をつけてる自分も むかつくぜ。確か午前12時に禁止エリアになる、I=6は、地図だとここから南東に位置する、ここからちょうど隣の区切りの中になる。実際の距離と、地図から見た長さでは当然実際 の距離の方が長い。まあ、ここは大丈夫って事だな。よし。
 兼光は、はぁ〜、と長いあくびをすると、診療所の奥に向かった。奥には、医者が生活する所のようで、ちゃぶ台らしき物に、棚がたくさんあり、その奥には 押入れがあった。さっそく何か・・・いや、既に頭の中ではあると確信してる物を探した。朝なのに、カーテンを閉め切ってるせいで棚に何があるのか よく見えなかったが、大きな物なら、なんとなく分かった。ここは避け、実際に調理するキッチンに向かった。その向かい側にはガラス張りの棚があり、ガラガラとガラス棚を開け、中には何かの調味料があった。 その下には・・・ビンゴ!!やはり思っていた物があった。手にとって見つめていたのは、インスタントコーヒーだった。眠気を避けるために、カフェインを多く取ろうと思った。 実際今も少し眠たかった。
 しかしこれだけではコーヒーは飲めない。電力は止められてるらしく、当然診療所内の電気を使う部屋の電球は付かず、冷蔵庫も中身は暗く、 入ってるものは、たくさんあったが、どれも少し異臭を放っていた。当然ガスも止められていると思い、ガスコンロの火をつけようとした。
 「チチチ・・・ボッ」
 思わぬ事に、少しの驚きと嬉しさが、一緒にこみ上げてきた。ガスは止められてないのか。いいや、そんなはずはない。きっと・・・ きっとプロパンガスだろう。しかし付いた事には変わりない。すぐに兼光は支給された水を、キッチンにあった小さな鍋に入れた。 コーヒーを作るために必要な水より、倍程多く入れた。水が沸騰する間に、準備する事があった。キッチンの向かいにあるガラス棚から、コンソメの粉末、マグカップ、 それから米びつから一握りの白米を出し、キッチンの上にある棚から小さな笊をだし、そこに白米を入れてボトルから貴重な水をちょろちょろ出しながら、 白米を洗った。(当然水道も止められて蛇口からは出なかった)これで1つのペットボトルは空になった。
 ふつふつと湧き上がる水は、すでにお湯になっていた。さらに急いで、腐った物が大量にある冷蔵庫から、できるだけ食べれる物を選んだ。まあ 衛生管理者ではないから食べ物の事はあまり知らないが、タッパーに入っていた刻みネギと、少し心配なタマゴを持って(夏じゃなくてよかったと思った) またキッチンに向かった。
 「ボコボコ」と、煮だったお湯を確認して、マグカップにインスタントコーヒーの粉末を入れた。少し濃いめに。そしてその上から、ガスコンロの火は付けたままで、 煮だってるお湯をマグカップに注いだ。何か足りないと感じた兼光は、キッチンに行き棚という棚を開け、スプーンを見つけ出した。これでマグカップに注いだお湯を、 溶けたコーヒー粉末と一緒に混ぜた。その間お湯は、さらに音を立てて煮だっており、急いで兼光は研いでおいた米と、粉末のコンソメ、 そしてネギ、最後に少し不安なタマゴ割って入れ、タマゴは溶きながら、コーヒーを混ぜていたスプーンで小さな鍋をかき混ぜた。鍋のお湯も少しは静まり返っていた。
 そう、雑炊らしき物を作っているのだ。料理は得意じゃないが、すべて勘で作った。ここも何時禁止エリアになるか分からないし、どんな奴がくるかも分からなかった。だから今のうちに、 体力を付けておかないと。
 兼光は、出来上がったコーヒーを「ズズッ」と口に少しずつ含みながら、入り口付近のベッド(寝ていたベッド)に座った。
 やはりコーヒーは落ち着く。一体自分は何してるのだろうって感じだ。クラスのみんなにも飲ませてやりたいぜ。ふぅ・・・一体。 一体これからどうしようか。俺はこれからどうしようか?やはり仲のよい真司や忠文、牧野に・・・??なぜ牧野つくしの名前が出てくるんだ! ちくしょう!隆!お前は一体誰にやられたんだ!仲間か?ええ?それとも俺は優勝目指して人殺しか?
 少しだけ・・・少しだけ兼光にこれからの行動が浮かんだ。――――会おう・・・友達を信じよう。それが今の望みであった。
 「シュワァァ」
 突然液体が熱したフライパンに落ちたような音がした。・・・!!すっかり鍋の事を忘れていた!持っていたコーヒーが入ったマグカップを置くと、 小走りで鍋が沸騰しているキッチンに行った。鍋からは溶岩のように、ボコボコと噴火していた。急いで火を止め、鍋の近くに置いておいたスプーンで、 鍋の中の"もの"を掬って食べた。すごく熱かったが、強引に喉に入れた。すぐに咳き込んだが、それなりに味は分かった。
 米は十分に食べられる固さだった。タマゴも・・・タマゴの味がした。しかし味が薄かった。そんな事こんな状況で言ってる暇はないのだが、キッチンの 向かいのガラス棚には、調味料がたくさんあった。兼光はそこから醤油を取り出し、ドボドボと、雑炊(?)の色が黒くなるまで入れた。
 皿に入れるのは面倒だと思い、鍋ごと座っていたベッドの地面に置いた。少し熱いので、5分ほど冷まして食べる事にした。その間は、コーヒータイムになった。
 そしてベッドの横には荷物と、いつでも発射OKの様にスナイパーライフルG3には弾がちゃんと込められていた。

【残り32人】




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