BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



13

  鬼月の放送があって、一体何時間自分はこうしてるだろう・・・。既に太陽が昇り、新しい朝を迎えようとしていた。いや、ここから見る 太陽は、「早くみんなを殺せ!」といわんばかりに自分を照らしてるようだった。幾つもの家が並び、夜も朝も静かな空間。 家の中から、窓越しに太陽を眺めていた神楽天美(女子五番)は思った。――――ああ、会いたい・・・樹に会いたい―――― 天美と樹は、中2の夏まで付き合っていた。別れた理由は樹からの変な一言だった。
 「もう3年になるだろ? 天美、天美と俺、今日で別れよう」
 その思い出が、天美の記憶を蘇らせた。


 「な、なんでよ?私達うまくいってるじゃない?」
 「俺は今でもお前が好きだ。しかし付き合って思ったんだ・・・。こんなんじゃないってな」
 樹は夕日が昇る丸山公園で、一つため息をついて言った。
 「俺は思った。天美と友達でずっといた方がいいと。決してお前を嫌いになった訳ではないんだ。 ただ、なんとなく自分の気持ちに嘘がつけないんだ。天美とは恋人同士ではなく、このままずっと友達同士でいたいんだ。 それが今の俺達にとってもベストなんじゃないかな、って」
 なに?恋人未満友達以上って事?恋人ではいたくないとはどういう意味?全く天美には理解できなかった。
 そこから喧嘩が始まり、2年の秋の終わり頃まで、一回も口は利いてなかった。既に天美は樹の事なんか忘れていた。しかしなんだか、胸の鼓動が 2年の冬まで異常に揺れていたのが、天美には気になっていた。2年の秋の終わり頃まで樹と口を利かなかったのは、ある噂が流れたからであった。
 2年の秋ごろだった。隣クラスの牧野つくし(当時2年B組20番)と、樹が体の関係をもったという噂が流れてきた。 真相を突き止めると、あっけない事につくし自身が流したただの嘘だと判明した。そして牧野つくしが樹に告白したという事実も聞いた。 天美はドキドキした。まさか・・・。しかし結果は意外だった。樹の告白の返事は、「俺には、神楽天美という好きな人がいる。だから 君とは付き合えない」と言う返事だったらしい。それで天美はもっと訳がわからなくなった。両思いなら、付き合うんじゃない? じゃあ私と樹は何で付き合ってないの?しかし次の日に、天美にとって嬉しい事が起こった。
 天美が寺島軍の誰かに、いじめにあった事があった。トイレで水を頭上からかけられ、その上個室に閉じ込められ、天美は悲しくて泣いていた。 寺島軍の人間がトイレから出て行き、数分たったときだった。駆け足で来る人間がいたのだ。またやられる!と思った天美は、 その場でぎゅうっとうずくまっていた。
 すると「ガチャガチャ」と、トイレのドアが開かれた。
 「はぁはぁ・・・」
 誰でもいい、自分はもう存分にいじめられた・・・、あきらめたとも言える態度をとっていた天美に、誰かの切れた息がかかった。
 「はぁ・・・た、天美、大丈夫か!」
 夢としか言いようがなかった。樹、そう、自分が大好きな樹が、助けに来てくれたのだった。嬉しかった。長い間聞いてなかった 樹の声だ。樹はすぐに天美を抱きしめた。強く、しかしやさしい感じが、天美にはした。
 「樹・・・」
 「怖かったよな・・・」
 「うん・・・すごく・・・」
 安心で、少し半べそをかいていた天美に、樹は天美を抱きしめ「ごめん・・・俺バカだよ。 好きな人間同士が付き合って当然だよ・・・ごめんな、天美。もう、いいんだ。これからは俺がなにがあっても天美を守る・・・だから、付き合ってくれ・・・」と言う樹の声がした。 夢ではない、いや、夢みたい だが、現実だ。天美は一度涙越しの瞳から樹を見上げた。そしてお母さんに抱きつくように、わぁわぁと泣いた。


 この中学生活で初めての事を、たくさん経験した。すべては樹がいてくれたおかげだった。樹に会えるから、部活が楽しく思えた。 樹に会えるから、勉強も一生懸命できた。天美は昇る太陽に、思い出を預けた。
 もう、思い残す事は・・・唯一あった。それは、最後、樹に会って、そして抱きしめられて、死ぬ。という願いだった。 たった一度でいい・・・樹に会いたい。ただそれだけ・・・そしたら私は消えますから・・・。天美は何度も神に語りかけた。 そして周りを警戒しながら、次の落ち着ける場所を探して、家から出て行った・・・腰には自殺用のデザートイーグル9oを入れて・・・。  

【残り34人】




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