BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



12

  志高池と呼ばれるその池は、そんなに大きくない池だが、朝方の水面はキラキラと、輝かしいほど光を帯びていた。周りの草々に囲まれ、神聖なる水があるようにも見えた。 既に太陽が昇り始め、近くで仮眠をとっていた並木隆(男子十三番)は、なんのためらいもなく自分の顔を、池の水で洗っていた。とても冷たく、気持ちが良かった。洗い終わった 隆は、持っていたハンカチで顔を拭き、自分のデイパックが置いてあった草むらに向かった。
 「ザッ、ザッ」
 その物音は、隆の3メートル先、一人の男が堂々と歩いて来た音であった。周りが少し明るいため、誰が歩いてきてるのかすぐに分かった。 あの不良男、木山誠治(男子六番)が、拳銃を持ってこっちに向かって来ているのだった。驚いた隆は、すばやく草むらに隠れようとした。しかし向こうから歩いてくる木山の足音が、早くなった。 ――――やばい、気づかれたのか?――――隆とデイパックの差は数センチだった。木山は絶対に自分を殺してくる。しかし隆の武器はスタンガンだった。 木山を殺すことはできないが、その場から逃げる武器には十分だ。手段は二つ、このまま隠れてるのか、木山にスタンガンを喰らわして、すぐに逃げる。この二つ・・・。
 木山の足音は、すぐに隆が身を隠している草むらに近づいてきた。そう、既に木山には"標的"なるものが見えていたのだ。隆は震えながら 考えた。木山にスタンガンを喰らわすには、後ろからじゃないと無理だ。いや、ぎりぎり近寄らせて、一気に・・・。隆はその手に賭けた。一歩一歩近づく 木山に対して、右手にスタンガンを持ってる隆は、慎重に木山の足音を聞いていた。
 「ザッ、ザッ」
 今だ!隆は自分の攻撃範囲に入ったと思い、しゃがんでいた体を一気に草むらから飛び出し、木山の体に体当たりした。勿論衝撃はあった。木山の小さな 「ぐっ」と言う声が聞こえ、隆になにか勇気が沸いてきた。今ならこいつを殺せる!そう思った隆は、右手のスタンガンを、木山が拳銃を握っている右手 に強く当てた。しねっ!
 ・・・・・しかし、なんの衝撃もなかった。え?隆はなんとなく気づいた。まさか・・・電源を入れるのを忘れていた!?しかしここでやられる訳にはいかない! 必死に抵抗する木山の体に、一発木山の腹に蹴りを隆は入れた。しかし木山は痛がる様子もしないでいつもの冷酷な顔をしていた。そして今度は木山から拳が、隆の頬を直撃した。 重い!そう感じた時には既に体が倒れそうになり、右手のスタンガンは地面に落ちていた。一発で、たった一発で隆の脳がぐらぐらと揺れた。それもそのはず、 木山が狙った場所は、頬は頬でも、下あごがある付近だったのだ。――――に、逃げなきゃ――――必死に逃げようとする隆は、木山に背を向け、 よろめきながらも必死で走った。走りながら、隆の頭の中に学校の出来事が浮かんできた。
 あれは中学2年の頃、当時でも噂になった、木山誠治と言う男。隆は喧嘩などには興味がなく、スポーツまっすぐの性格だった。その努力が実り、 中学2年で、テニスの県大会第1位だった。しかも全国大会にも出場し、中学生の部で第6位をとった事もあった。そんな隆には、喧嘩で有名な木山 なんて、関係なかった。しかしながらも、噂というものは嫌でも耳に入ってきた。実際木山誠治が喧嘩をしてるのを、隆は一度も見たことはなかった。 そんな事は自分には関係なかった。でもある日のこと、隆が部活を終えて友達と正門から出ようとした時、4人ぐらいの金髪の不良中学生と、1人の中学生が居た。 隆だけではなく、その正門の周りには、数人の男子、女子が集まっていた。そのとき、ある女子2人が「ねえ、あれって、木山くんじゃない?」 と言うのを聞いて、初めて噂の"木山誠治"を見た。そして隆とは全く関係のない"喧嘩" というものを、隆は見てしまった。他校だと思う金髪の男が、金属バットを木山に振りかざした時だった。肩にモロにあたった木山は、その場でしゃがんだ。 そして4人の不良が、寄ってたかって木山に蹴りを入れていた。その時だった。一人の不良をはじめ、あとの3人も、すごい悲鳴をあげはじめた。「じぃぃい」と、 その場で震えながら倒れる不良たちの首や、手首からは、見たこともない大量の血が流れていた。どうなったのかよく分からない隆だったが「ナイフ?うそ」と言う 誰かの声が聞こえた。ナイフか・・・。隆はその時怖くはなかった。少し、木山誠治と言う男が、かっこよく見えた。その木山はそのまま何事もなかったように、 冷酷な顔をして脇にカバンをはさみ、トコトコと歩いて行ったのだ。当時の不良と言えば、木山誠治の他に、神山克人(男子五番)がいた。当時から 木山と克人は『極悪の不良』『正統派の不良』とレッテルを貼られていた。克人と隆は、少しではあるが 話した事があり、一度、木山の事について聞いたことがあった。その時克人は「木山は悪だが、その悪がこの学校にいるから、うちの学校には不良がいないんじゃないかな? だから木山が学校で騒動をあまり起こさないから、この学校もまとまってるんだと思うよ」と言ったのを隆は覚えていた。
 「ドンッ!」
 逃げる隆の足が、突然走りを止めた。いや、止んだ。木山の拳銃の弾が、隆の右足の太ももに当たったのだ。グラッと体が揺れ、太ももが異常に熱かった。 しかし尚も、隆は逃げていた。足を引きずりながら・・・。
 木山の足音がこちらに近づいてきた。隆は必死に逃げようとした。だが次の瞬間、木山の手が、隆の首をつかんだ。首をつかむと、うつ伏せになっていた 隆の体を仰向けにして、馬乗りの状態で首を絞めたきた。ものすごい力で、すぐに隆は呼吸ができなくなった。必死に木山の手を放そうとしたが、力も入らず びくともしなかった。隆は、薄れゆく意識の中で、最後の場面が頭に浮かんだ。それは、木山の冷酷な顔だった。そう、今の場面が浮かんだのだった。 一度も首を絞められた事はないのにも関わらず、記憶の奥底に、同じ場面があった。そして、最後の結末を隆は予想できた。既に青白くなった隆を、木山は絞め続けた。 そしてとうとう、隆は全く動かなくなった。
 ただ、頭の中で、「木山君、俺、本当は君に憧れてたよ」と言う答えを残しては・・・。

【残り34人】




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