BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



10

  神社は集落から大きな石階段を上った所にあった。既に柱はボロボロで、鳥居には無数の傷があった。まるでここで何かあった様な感じだ。 その神社の中にある、大きな賽銭箱の後ろで闇夜に震える少女がいた。少女は誰もここにはこない事を祈っていた。と、突然少女はすごい孤独感を感じ、恐怖が押し寄せてきた。なんで こんなことになったのだろうか。そして家に帰りたい。心の中でずっと泣いていた。 暗い・・・。ああ、神社の中にある寺院のカギが閉まってなければよかったのに・・・。私・・・どうなるの?
 「トットットッ」
 一瞬にして少女は凍りついた。――――誰かが来た!?――――とっさに少女は自分が持ってたデイパックの中身を開いてみた。暗い闇の中、手に持っていたのは 少し汚れがかかった布と綿だけでできている人形だった。――――えっ?何これ?――――他の武器はないのかと、少女は胸に人形を抱えたままデイパック の中身をもう一度調べた。水、パン、地図・・・。その時であった。
 「だ、だれだ!お前?」
 既に少女の横数メートルに一人の男子が立っていた。こちらからでは分からないが、向こうは何か気づいたらしく、少女に向かって「お!お前、岩下愛か?」と尋ねてきた。
 少女は思った。向こうからでは、自分の姿が見えてるのだと。もう終わりだ・・・と。
 「そ、そうよ。私、岩下よ。あなたは誰なの?」
 岩下愛(女子三番)は、少しずつ近づいてくる相手に脅えながらも必死で言った。
 「俺か?」相手はどんどんと近寄ってきた。そして愛にも相手の顔が見えた。
 「む、村瀬君?」と、愛が言ったその先の人間は、愛が見たとおりの、 クラスで明るい、村瀬淳也(男子十九番)だった。しかし、愛にボウガンを向けている淳也の顔は既に顔がくしゃくしゃになっていた。ぐらぐらと、体を 通じてボウガンまでもブルブル震えていた。だが、もっと震えていたのは愛だった。
 「な、なに?村瀬くん、その変な物を下ろしてくれない?そんな物持ってたら、物騒でしょ?ね?」
 しかし村瀬は、ニヤリとした。ボウガンを愛に構えながら「へへへ、物騒?冗談じゃない。これはゲームだぜ?てめーは、俺に殺させるんだよ! いいか?殺らなきゃ殺られる!家に帰れるのはたった一人なんだよ。そして俺はお前を殺す。そして家に帰る。ひゃひゃっ!しねぇ!ブス!」
 愛の覚悟はできていた。愛は淳也のことが中一の時から、ずっと好きだったのだ。――――ああ、好きな人に殺されるのなら、本望だわ―――― 愛は武器(?)だと思われる、汚れた人形を両手で強く抱き、目をつぶって立っていた。
 「村瀬くん・・・さあ・・・殺して」
 「ひっ!ひっ!しねぇ!」
 「ドシュッ!」と、鈍い音がした。  「ちっ!」淳也のボウガンの矢は的を外してしまったのだった。いや、実際は的が矢を外した、と言うのが 正しかった。確かに淳也の体は震えていたが、まっすぐ飛んだ矢が、なぜ愛の足元の地面に突き刺さっているのか分からなかった。いや、逆にそれも怖かった。 今、愛は目をつぶっている・・・。淳也は予備の矢を背中のリュックから取り出し、ボウガンに設置した。もう一度・・・今度こそ殺やってやる。
 目をつぶっている愛は、少し思い出ふけていた。学校・・・友達、家族・・・その時だった。一瞬・・・ほんの一瞬、淳也に恨みを抱いたその時だった。
 同時に淳也もボウガンの引き金を引いた時だった。急に後ろから"誰か"が淳也の頭を押し、持っていたボウガンが淳也の顔面下に向けられた。なぜ? そんな事を考える暇なく、淳也は自ら引いた矢で、喉から後ろ首にかけて矢が刺さったのだった。
 「ドシュ!」
 奇妙な音が神社に響き、愛は目を開けた。突然目に飛び込んできた、淳也の異様な姿。 それは自分が殺されると思っていた愛には、思わぬ事態だった。一瞬にして愛の走馬灯が消え、 現実が蘇った。しかも目の前にいるのは、変てこな顔をして倒れている好きな男子。愛はなにがなんだか分からなかった。自殺?え?どういう事?まさか まだこの神社に誰かが!?しかしどう見ても淳也の後ろや周りには見た感じ誰もいないし、誰かいる雰囲気などまったくなかった。愛は少しずつ淳也に近づいた。
 仰向けに倒れてる淳也は、目が白目をむいでいて、顔が酷く醜く、口から血と共に舌がこれ以上は出ないと言うぐらいに飛び出していた。 そして喉に刺さった矢からは、紅い鮮血がちょろちょろでていた。まるで作り物のようなグロテスクな顔をしていた。ああ、村瀬君・・・今ならいくらでも 言えるわ。私、あなたが好きよ。大好き。
 なぜ自分が死ななかった?涙流れる愛は不思議に思うばかりであった。好きな人がこんな醜い姿で死んでるなんて・・・。しかし、愛は淳也のおかげで、 この"くそゲーム"のルールを実感した。愛は駆け足で自分の荷物を置いてある場所に急いだ。賽銭箱の後ろにあった荷物を持つと、デイパックから 水を飲もうと取り出した。それとくっついて、手に一つの紙切れがあった。真っ白な紙で、赤い字で『呪いの人形マミー』と書いてあった。 ――――の、呪い!?そんな武器が入ってるの?――――その時愛は気づいた、まさか、今抱いている人形が・・・?ま、まさか・・・。 愛は、呪いの人形の説明書らしきものをもう一度じっくり読んだ。『呪いの人形マミー』の文字の下には、こう書かれてあった。
 『おめでとうございます。あなたは最高に運がいい人です。今日からあなたは最高最強。何があってもお手元からマミーを放さないでください。ずっと可愛がってやる事で、 マミーはあなたを守ってくれます。呪いの使用期限は使い始めて5日間です。5日たったら効果が消えて、ただのボロ人形になりますので、土に埋めてやってください。By共和国魔術集団 赤狼団』
 やはりこれは呪いの人形なんだ・・・。愛は、自分の胸に抱いているその"マミー"を見つめた。なぜかこの時、人形をこの場で捨てようと思っていたが、 なぜか離れなかった。いや、離れたくない気持ちになったのだ。そして愛は決心した。――――私は戦う。村瀬君以外の人間に殺されてたまるもんですか―――― 愛は必死に涙を堪えた。しかし次から次へと涙が溢れてきた。淳也の死は自分のせいだと思った愛は、自分とこの人形"マミー"を憎んだ。生きてやる! 何処までも・・・。
しかし、見るに堪えがたい淳也の死体を再度見て、生きてるうちに、このゲームが始まる前までに 自分の想いを伝えたかったと後悔をした。
そしてまた寂しい気持ちが愛を襲い、同時に涙が頬を伝う。  愛は自分の荷物を持ち、少し半べそをかきながら動かなくなった淳也の死体に目をやり、最後の言葉を投げかけた。
 「私、あなたのこと。いえ。あなたが、敵でよかったわ」

【残り35人】




次へ

トップへ