BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



  ため息をつき、その短い髪を手でさらっとかき上げ、薄暗い浜辺で小見有紀(女子六番)は砂浜に座り、支給されたデイパックの中身を見ていた。 有紀は少し思い出に耽っていた。
 楽しい修学旅行・・・大東亜共和国の中心都市、トウキョウ。東京についたら自由行動。そこで、彼氏であるB組の、末永孝(マツナガタカシ)と、 楽しいショッピングが待ってたはず・・・なのにどうして・・・?私はここで死ぬの?ああ、そうなら一回でもいい・・・孝に会って死にたい。 いや、本望は孝と、死にたかった。人なんて殺せないよ・・・孝ぃ・・。
 じわっと溢れる涙を有紀は気にすることなく、デイパックの中身を取り出そうとした時だった。
 「よく泣く子ね〜」
 突然有紀の後ろで声がした。「ひっ!」と、有紀の肩が上がった。それと同時に有紀は後ろを振り返った。有紀の目に入った人間は、 黒い"物"をこちらに向けていた。その相手とは、クラスでも有名な不良、スポーツもそこそこでき、日本人形のような黒髪ストレートがトレードマークの 綺麗な顔立ちをした、寺島留美(女子十四番)だった。
 「て、寺島さん・・・」
 有紀には、もっとも会いたくない人物であった。不良である寺島留美は、このゲームの参加者全員が"乗る"と確信しているからである。それに もう一つ、自分が殺される理由があった。
 「ふふふ・・・どうしたの?そんなに脅えちゃって。この時を待ってたわ・・・有紀ちゃん」
 寺島留美の声が少し強くなった。
 「あなたそう言えば、 私の友達だったはずよね?いつも一緒にいたわよね?そう、そうそう、あなたは私の軍からある日突然やめたわよね。それは、もう悪い事はしたくないって 理由だと私てっきり思ってたわ。そしたらあなた、次の日から私の大嫌いな、椎名の軍に入っちゃってるじゃない」
 そう、有紀は今思い出していた。自分のやった事を。あれは、1、2ヶ月前だったかもしれない。有紀はクラスの中でもおしゃべり者だが、存在感が薄い女子であった。
 その頃、クラスでは、有名な不良2人が争っていた。このクラスの女帝は誰か。勿論、2人というのは寺島留美と椎名瑞希だ。 2人ともよく悪い事をするのにも関わらず、クラスの中でも美形の顔と、端正なスタイルの持ち主だった。そのうち隣クラスまで、この2人の噂はあっという間に 広がり、ついには2人の喧嘩に手助けするような女子も増え始めた。それが軍結成の始まりであった。 軍の活動は不良のやる行為と同じだった。いじめや恐喝、そんな事をやっていた。 そしてある日、存在感が薄い有紀は寺島軍(当時寺島留美を始め、全6人だった)の中の3人に、トイレでリンチを喰らっていた。 ああ、やはり私にも来たのね・・・。そんな事を思いながらも、ぽろぽろと流れる涙を拭きながら、必死に耐えた。 その時であった。リンチしていた女子3人が、突然黙ってしまったのだ。ふと有紀が気づいた時には、目の前にあの寺島軍のボス、バスケットの上手い、寺島留美が 仁王立ちをして有紀を見つめていた。――――ああ、とうとうボスの登場ですか・・・はぁ、今度のいじめのコースはなんでしょう?―――― しかし、寺島留美は、横たわってる(しかも全身水浸し)有紀に近づき、体を起こしてくれた。そして、少し微笑むようにして寺島留美はこう言った。
 「あんた、小見さんね。いじめは痛いでしょう?どう、もう嫌でしょう?だったら、逆の立場にならない?」
 「え?」何を言ってるの?有紀は涙ぐむ目で留美を見つめた。
 「私達の軍に入らない?そうじゃないと、あんた、私の部下に又同じことをやられるよ?どう、入らない?」
 なんと軽々しいんだ。有紀は考えた。これは本当に言ってるのか。もしかして私がここで、うん、入ります。寺島軍に入ります。って言えば、 また冗談だって言われ、笑われるんではないかとその時有紀は思っていた。しかし言ってみよう。もし本当なら、こんな痛い目に あわなくて済むんだから・・・。有紀は覚悟の上で言ってみた。
 「は・・・い・・・入ります。入れてください」
 留美はニコッとして、「ええ、勿論よ。歓迎するわ」と言う返事が返ってきた。有紀は悪魔との契約を交わしたのだった。
 それからだった。自分が存在感が薄くない自分に変れたのは。しかしその一週間後、寺島軍の敵、椎名軍(当時椎名瑞希を始め、全5人) の活動内容を知ってしまった。それは、寺島軍とよく似ているが、いじめも恐喝もなし、ほとんど悪いことはなにもしないで、 隣クラスのかつあげをしている不良をかつあげしたり、いじめを行うやつに対して報復行動をしたり、そんな事でクラスの評判は、正義の軍団、椎名軍が圧倒的に人気だった。 有紀は次第に椎名軍に憧れを抱くようになり、友達を通じて、とうとう椎名軍に入隊してしまった。 それを留美は知っていたのだ。
 有紀は思い出した事に罪の意識はなかった。――――寺島さん、あなたが悪いのよ。初めからいじめなんてしなければいいのよ―――― 有紀は寺島が持つ黒い"物"の正体がはっきり分かった。銃だ。その瞬間から有紀の体が震え始めたが、今なら言える。そう確信した有紀は、 自分に銃を向ける留美に、顔を歪めて言った。
 「寺島さん。あなたが悪いのよ。あなたさえ、いじめや恐喝なんてしなかったら、こんな事なんて起こりもしなかったのよ! そう、あなたが全部悪いのよ!」
 少し驚いた様子だったが、留美はすぐに顔つきを変え、冷静な顔に戻し「ふふふ。有紀。あなた成長したわね。 でもね・・・あなたは逆に成長しすぎたのよ」と、冷静な喋りと同時に、留美のマシンガンが火を噴いた。
 「ドガガガガガガッ」
 有紀は声一つあげずに、体中に弾を浴びてそのまま砂浜に倒れた。既に動かなくなってる有紀の体から、まるで満ち潮の様に 真っ赤な血がドクドクとあふれ流れ、砂の中に吸い込まれていった。
 留美はふにゃりと倒れている有紀に近づき、首の動脈を調べ死んでる事を確認すると、有紀のデイパックの中身を探り始めた。そして留美が取り出したのは 金属バットであった。それだけを有紀のデイパックから取ると、マシンガンを肩に掛け、右手に金属バットを持ち、颯爽と砂浜を後にした。

【残り36人】




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