BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



  地図で言うとF=9にあたるグラウンドに、一人の男がしゃがみ込んでいた。野球が大好きで、友達付き合いがいい、 佐藤匠(男子九番)がフェンスの近くで座っていた。 グラウンドには眩いほどのライトがついていて、視界にはまったく問題はなかった。 なにやらデイパックの中身を調べながらも、周りを慎重に窺いながら、そしてまた、デイパックの中身を調べていた。
 「お!」
 思わず声が出た匠の目には、茶色の紙袋に入った拳銃があった。そう、匠の武器は拳銃であった。説明書に書いてある名前によると 『南部14式リボルバー』と書いていた。匠はまじまじと銃に目を奪われていた。その時であった。
 「ガサッ」
 びくついた様に匠はすばやく音が聞こえた方へ南部14式リボルバーを向けた。――――なに?誰も来てないと思ったのに・・・ ――――匠が拳銃を向けた草むらから 「ガサッ、ガササッ」と、どんどん草の揺れが大きくなっていた。そして、匠が音のする方へゆっくり歩み寄った時だった。
 「匠!撃たないでくれ。俺だよ・・・」と、小さな声が聞こえた。その声に匠は気がついた。いつもの仲間。いつもの友達の声だった。しかし匠は疑い深く、声のする方へ 「誰だ!撃つぞ」と、少し強めた声で言った。次の瞬間「ガサッ」と、今度は草むらから2体の体が現れ、匠の方を見ながらニコニコしていた。
 「・・・!昌二!それに真司!」
 そう、まさに匠の目の前には、親友とも言える2人の友達が立ってた。これほどにも運が良かったのは初めてだったかもしれない。
 「おい、匠、撃つぞってお前、その銃に弾はいってねぇだろ?」と、すべて分かってるような 顔で匠に近づきながら歩いて来るのは、性格がしっかりしていて、それで尚も学力とスポーツが抜群にいい男、伊藤真司(男子2番)だった。 それに続くように「匠くん、大丈夫、僕達はやる気なんてないから」と、もう一人の男、クラスでもアイドル顔で、しかも人一倍やさしく、女子に人気がある、宇喜多昌二(男子三番) が真司の後ろから匠の方へ歩いて来た。
 「お前らどうしたんだよ、2人そろって・・・と言うか真司、なんで俺の銃が弾入ってない事が分かったんだ?」
 不思議そうに話し掛けてくる匠に、真司が微笑みながら「お前・・・俺達はお前がこのグラウンドに来る前から、ずっといたんだぞ、 だからお前がここに来て今にいたるまで、全て監視してたんだよ」
 うそだろ?――――もし相手が真司達ではなく、あまり自分と仲良くない奴だったら、今ごろ自分は殺されていたのだろうと、ああ、 自分はなんて運がいいんだと、心の中で匠は呟いた。そして、昌二が匠の側まで来ると真司と匠の顔を見て、「まさか僕も2人に 会えるなんて思ってなかったけど、運が良かったのか、僕があの廃校から出たあと、後ろから真司が声をかけてきてくれたんで僕と真司は会えたんだけど、 真司が匠くんが来るまであの廃校の近くに隠れて待っていよう、って言ったんだけど、ちょうど廃校を出て、グラウンドとは反対側の方で刃物 かなんかで、血だらけで死んでた石上さんの死体があったんだよね、真司?あっ、実際僕が見たわけじゃないんだけどね」と言い、昌二は真司の顔を見た。
 「ああ、実際の所、昌二は見なかったが、 俺が見たときは何か刃物らしき物・・・多分ナイフか包丁だろう、腹を一発誰かに刺されて大量の血が出ていたんだ。石上も石上で、手には刃が太いナイフを持って死んでた。 だから、俺達は廃校の近くは何かと危ないと感じて、ここ(グラウンド)に来たんだ。そしたらお前が来たってわけさ」と、真司はこれまでの事を 匠に話した。
 まさか、こんなに思ってる友達がいたとは・・・俺ってバカだ・・・少しでも友達を疑った俺は最悪な人間だ。真司、昌二・・・すまない。
 匠は、思いついたように真司と昌二に向かって訊いた。「おい、そう言えば2人とも武器はなんだったんだ?」
 真司と昌二は静かに腰の方へ手をやった。真司も昌二も、匠に見せるようにして武器を出した。
 「お前らも銃か」
 匠はなんだかホッとしたような気分になった。真司の武器も、昌二の武器も拳銃であった。
 「俺のは、コルトガバメント45口径で」と、昌二に言葉のバトンを渡し「僕のは、センチメーターマスターだっけ?うん、そう、センチメーターマスター」 と、昌二も答えた。もちろん匠も聞かれるだろうと思い「なるほど、俺のは南部・・・え〜14式リボルバーだ」と、答えた。
 「まあ、とにかく3人そろったんだ。ここじゃあなんだ、少し遠いが、集落へ行かないか?あそこならここより休めるだろう?」
 真司の言葉に、匠と昌二も頷いた。賛成だ。
 「よし、それじゃあ匠、弾をつめろ。この先道のりは長い。なにが起こるかわからないからな」
 「お、おう」
 そして匠が銃に弾をこめ終わると、真司を先頭に昌二、匠の順で、早歩きでC=8あたりの集落を目指して歩き始めた。きっと今から 長い道のりが続くだろう。しかし、今は大切で心強い仲間が側にいる。そう思いながら、匠はしっかりとその足で地面を踏みしめた。

【残り37人】




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