第一部
試合開始
7
静かな夜に、キラッと光る"物"を持つ人間が、廃校の近くでいた。それは暗闇に十分な
ほどの光を放っていた。
支給された武器のサバイバルナイフを持って、一人の少女、石上晴香(女子一番)が"何か"に向かって歩いていた。晴香は廃校を出る順番が
わりと前だった為、廃校の近くの林に身を潜めた。いや、最初は怖がって泣いていた。だがいつもの自分を取り戻し、自分の
気に入っている小説の一部分を思い出した。
そうすると自然に怖がっていた何かが薄れていった。落着いた晴香はデイパックを開け、武器となるモノを発見した。そして、
廃校から出てくるクラスメイトを殺す提案を独りで立てた。
そして今、廃校の入り口が見えるところまでもう少しの時だった。晴香の案は不安に変わった。それは現実に見えるものだった。
――――人間――――本能が叫び、次第に晴香の足は向きを変え、そちらに後ろから忍び寄っていく。
一方、ザッザッ、という足音を聞きながら、手に包丁を持った少女、牧野つくし(女子十九番)は、後ろから来る小さな足音に気づいていた。
小さい足音でも単純に耳を澄まさなくても聞これるほど周りが静かだ。そしてつくしはゆっくり後ろを
振り向いた・・・。
暗い視界でポツポツと立っているスタンドライトの中、メガネをかけ、手にはサバイバルナイフを持った少女が
つくしに近づいて来ている事がわかった。
つくしはそのメガネと髪型で誰だか分かった。――――晴香?――――今つくしは誰か友達に会って共に行動できる人物を探していた所だった。
しかし、つくしは晴香が手に持ってる物を見つけて次の行動が選択された。
ナイフ?つくしは急に目の前の全ての物が怖くなった。もう、ゲームは始まってる・・・。仕方ないってこんな時使うのかな・・・。
そしてつくしに、ある一言が頭をよぎった。――――殺らなきゃ、殺られる――――そう、相手が誰であるか既にどうでもいい。
相手は武器を持ってる。はぁはぁと、
つくしの呼吸が乱れ始め、ついに何かが途切れた。殺す・・・殺す・・・殺す!!コロシテヤルーー!!
そのつくしが自ら振り返り、後ろから襲おうとしていた晴香と目と目があった。同時に晴香も驚いた。自分は襲おうとしていたのだが、
相手がつくしと分かった瞬間、晴香は戸惑った。同じバレー部で仲良しのつくしなのに、手には包丁が握られている。つくし・・・あなたも。
だが晴香も同じ様に、「殺らなきゃ、殺られる」の言葉が頭をよぎった。晴香は今の状況上、頭が混乱していた。
そして、つくしと同じ様に、何かが破裂した。
殺してやる!!殺してヤル!!
殺気立つ二人は相手の目を見つめながら、いや、睨み合いながら何も喋らずゆっくり、ゆっくりと見つめながら横に移動を始めた。まるでその場をグルグル回る様にして
2人は何かの合図を待っていた。そして次の瞬間、ゴングが鳴り響いた。一瞬だけ風が「しゅううううう」と、強まったのだった。
「ザッ!」と2人同時に走り始めた。2人ともスピードは落ちることなく、もはやこの戦いはどちらが強いとかではなく、寧ろタイミングが
勝利を手にするようだった。
「はぁ!」
先に攻撃を受けたのは晴香だった。つくしの包丁が、サバイバルナイフを持ってる晴香の手首に深くヒットした。いや、正しくは晴香の方が
攻撃をしたのが先であったが、晴香の攻撃はつくしの体から的を外していた。つまり的外れ。
手首を切られた晴香は、つい手の力が弱まり、サバイバルナイフを落としてしまった。
晴香は急いで落ちたサバイバルナイフを反対の手に掴んだが、その瞬間、つくしの包丁が晴香の腹に飛んできた。勢いあまってつくしと晴香は
飛び転ぶようにして地面に体を打ちつけた。
「グサッ!」
その時なんとも聞いた事のない卑劣な音がした。肉を切るのではなく、中に刺し込む音というのだろうか・・・。
攻撃を受け、重傷の晴香は既に意識が薄れかけていたが、最後の力を振り絞り、反対の手にサバイバルナイフを持ち、つくしに刺そうとしたが次の瞬間、
晴香の腹に包丁を刺していたつくしの手が急に強くなり「ぐちゅ」と、晴香の腹部奥深くに入った。
「うぶっ」と、晴香の口から紅い血が吹き出た。晴香は痛みを堪えながらうずくまった。
手には血。血・・・血・・・。一瞬晴香の頭に、クラスメイトの顔ではなく、読んで感動した小説の題名が無数に横切った。
晴香の、全身の力が抜けた。
つくしも気がついた時は晴香の腹にこれ以上は刺せないと言う位、包丁の柄の部分まで刺していた。こんなに力があったなんて。
私って案外筋肉質かも・・・。
正気を取り戻したつくしは晴香に刺していた包丁をすばやく抜き取った。抜き取る時も晴香の顔は見なかった。
「ぐしゅ」と鈍い音と共に、晴香の体が仰向けにバタンと倒れた。晴香の目は見開いており、まるで人形の様に死んでいた。
殺したの?私が?・・・うそ・・・。すごい冷たい何かが、つくしの体中に染み渡り、フラフラになりながらも走って闇に消えた。
晴香の「案」は、残念ながらも運命に却下された・・・。
【残り37人】