BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



  そして・・・。
 「はい、続いて、本城一!本城一!」
 とうとう一の名前が呼ばれた。――――くそっ!やっぱり夢じゃないな・・・どうしよう・・・―――― しかし、一の足はすいすいと鬼月に引き寄せられるように 歩き始めた。何度生唾を飲み込んだだろうか・・・息もなぜが切れていた。村瀬がここ(教室)から出て、何分経ったのだろうか。
 すいすいと鬼月の所まで行くと、なにか障害物があるように、その場で一の足が止まった。
 「さ、合言葉を言え。本城」
 目の前には、あの少し不良っぽい顔で茶髪の男、鬼月が冷静な目で一を見ていた。しかし、一自身言っているつもりはなかったが、 自然と「私達は・・・」と、出ていた。 俺は何やってるんだ・・・。そんな事を思いながら、鬼月が一にデイパックを渡した。
 ドスンと、少し重みがあった。いや、これは少しどころじゃない。今にも その場で体が倒れてしまいそうなくらいに重い。この重さは「プレッシャー」だ。
 自分の武器はなんなんだろう・・・。不安と変な期待感を抱きなら一は教室から出た。そう、期待している。不安の 裏側にはいつも期待が飛び跳ねながら待っていた。運動会の時もそうだった。徒競走で自分はビリにならないだろうかと 不安を抱く一の中に、期待に胸膨らます自分もいたことを思い出していた。あの時と同じ感じだと・・・。
 廊下には5、6人の専守防衛兵士が窓際(実際、窓は鉄板らしきもので塞がれていた)整列して立っていた。一は静まりかえった廊下を少し 早歩きで歩いた。見て見ぬふりとはこの事だろうか。
 まっすぐ進むと、数メートル先にボロボロの木のドアが開いていて、一ちゃんいらっしゃい、ここが殺人ゲームのゲートよ。と、言わんばかりに、 一を待ち構えていた廃校の出口があった。少しずつ近づいて行くと、右側にギラギラ光る灯がもれていた部屋があった。 誰か居るのか?まるでその部屋には待っている、自分を待っている部屋のような感じに襲われた。だが、そこには決して入ってはいけない。 もし入ると・・・。
 一はドアの方に歩きながら、チラチラその灯がもれている部屋を覗いた。中には、鬼月などと一緒にいたような服装の専守防衛兵士達8,9人と、 白衣を来た人間が3,4人、なにやらパソコンらしきものや、大きな装置の側に立っていた。 今の時代、パソコンという機械は一にはめずらしい物だった。中にはタバコを吸ってる兵士もいた。タバコは好きじゃないが、 その時ばかりはその吸っている光景が羨ましかった。
 もう少し見ていたかったが、今の一にはそれより大事なことがあった。そう、この先にあるドアを出た次の行動を考えていた。 いや、既に決まっていた。確かに、考える暇はいくつかあったんだ。決まっていてもおかしくない。ただ行動を考えるだけ、殺し方なんて考えはしない。絶対に。
 その行動とは、1番仲のいい、影野樹、野ノ久敬二に会う事だった。 敬二は出て行く時、ちらっと一とアイコンタクトしようとした気がした。 ただ気になるのは、あの時の顔はなにか敬二ではないような恐々しい顔だった・・・。だがそれ以上に一は、一方の樹の事が気になっていた。 一は、樹に不安を抱いていた。
 樹は教室を出るときに表情一つ変えなかったのだ。たしかに樹はあんまり感情を表に出さない性格だけど、 怖がっている顔や不安な顔一つ窺えなかったのだ。たとえ樹でもなんらかの表情はするはず。いや、空気ってものすら感じない。 まさか、樹はこのゲームに乗ったのか?うそだろ・・・。意外に怖がりなんて言わないでくれよ・・・。意外に殺しが好きなんて言うなよ・・・。 いや、あいつはそんなバカで単純な奴じゃないはずだ。なんとか樹に会って、そして一緒にこの島から逃げ出す方法を考えよう。きっと 樹なら・・・。そう一は思っていた。
 すうううっと、開いたドアから一の体に冷たい風が当たった。ザッ、と言う音と共に一はドアの外に出た。見た感じ暗い。その通り、一が着けていた腕時計 の針は、11時を指していた。これでは全く何も見えないと一は思ったが、島の所々に不気味なぐらいぼぅっとしたスタンドライト らしき物が立っていて、すべてが真っ暗な訳ではなかった。
 そしてまず最初に、一は近くの草陰に身を潜め、支給されたデイパックの中身を見た。なにが・・・一体なにが入ってるんだ・・・。
 中には、たしかに鬼月の言ったとおり、1リットルペットボトルの水が2つ、そして、給食で見たことあるコッペパンらしきものがビニール袋に2つ、 それにこの島の地図らしき物と、方位磁石、腕時計が入っていた。 どれも、この国、大東亜共和国のシンボルマーク、金の桃のロゴが入っていた。パンなんて実際パンに桃のマークが焼印されていた。おえっ。 一はこれが入ってる事は鬼月が言っていたから思い出して分かったが、一人一人違う武器、と言う物が気になっていた。 と、デイパックの一番下に、細長い茶箱が目に入った。
 まさか・・・。心臓がバクバクと鳴っているのが分かった。
 一は確信しながら、茶箱のフタを開いた。――――やはりそうだ――――銃だ、それも拳銃ではなくて、長い、ライフルの様な物だった。そっと、指先で銃に触れた。 ひんやり冷たいが、その銃の横に小さな手帳サイズで2ページほどの説明書が入っていた。まず一の目に入ったのは銃の名前だった。"ファマス5"と言う一には聞いた事もない 銃の名前が書かれていた。その下には"種別:ライフル"と書かれてもいた。
 ラ、ライフル?一は驚いた。普通の拳銃でもドキドキするのに、まさか自分の支給武器がライフル銃なんて・・・。 しかし一は説明書を全て読み、自然とライフル銃の弾を詰め始めた。
 この時だけは、勉強を嫌というほどしておいてよかった。おかげですいすいと 頭に入っていく。と思った。
 なぜ、自分がこんな事をしてるか、今はなんとなく分かっていた。
 "自分の身を守るため"それだけだった。
 一はライフルの弾を詰め終わると、肩に重みのあるそのファマス5を背負って、地図を見て場所を確認し、 それを制服の右ポケットに入れ、目指す北の方の集落がある場所に向かった。

【残り38人】




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