BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



  む、村瀬が1番?おいおい、クラス1明るく、クラス1ビビリのあいつが先頭?大丈夫かよ・・・村瀬。 ――――まだ、自分のクラスがプログラムに選ばれた事を 実感できないでいた一は、頭の中で届くはずもない淳也に必死で呼びかけていた。――――くそったれ、この国はどうなってんだよ。何が ゲームだ。何が・・・何が・・・。
 「ああ、あとな、この教室出るときにある合言葉を言ってもらうぞ。言わない奴は殺されると思え、いいな」
 鬼月はドアの側に向かって歩きながら、ポケットからJOKERと言う銘柄のタバコを取り出し、今度は胸のポケットからライターを取り出し、 タバコに火をつけふかしはじめた。そしてドアの側まで来ると、後ろに居た専守防衛兵士が衣装ケースの蓋を開け、デイパックを個々に鬼月の 足元に置き始めた。そして鬼月の目が、村瀬を直視した。
 「それじゃあ村瀬、お前からだ。早く来い」
 一は後ろ側の席に座っている村瀬淳也の机から、小さな振動が聞こえるのが分かった。ドクンドクンとではなく、恐怖の足音と 言うのだろうか、人の中に眠る恐怖に向かって立ち向かうココロの音。
 その時であった。鬼月がプカプカとタバコをふかしながら、 一言大きな声で言った。
 「あのな〜この教室出るときに言ってもらう合言葉ってのは『私達は殺し合いをする』と『殺らなきゃ殺られる』を、2回ずつ言って 出て行ってもらう。いいな〜。よし、それじゃあ、村瀬、一番はお前だぞ」
 「ガタン」
 机から飛び降りるように離れた淳也は、がたがた体を震わしながらそっと鬼月(ドア)の方に近づいて行った。鬼月は少し微笑みを浮かべながら プカプカタバコをふかしていた。生徒全員が、淳也の背中を見つめていた。一歩、また一歩と、震える体は少しずつであるが前進し、とうとう鬼月の側にきた。
 「なんだ村瀬、酷く体が震えてるじゃないか?でも、みんな震えてるか・・・。へっ、よし村瀬、合言葉を言え」
 鬼月の言葉にびくついた様に反応し、淳也は1番最初に、大きな声で叫んだ。クラスメイトの目が一瞬敵意の目になった。
 「わ、わたしぃたちは!殺し合いをする!・・・わ、わたしたちは殺し合いをする!」
 鬼月はうんうんと頷きながら淳也に一言投げかける様に言った。
 「よし、じゃあ、もう一言あるよな!『殺らなきゃ殺られる』を言え」
 「やらなきゃ!やられる!・・・殺らなきゃ殺られる!」
 既にこの時、淳也の振るえが止まっていたのが一の目からも分かった。――――村瀬、お前はこのゲームに参加しないよな?な?――――
 そんな一の思いも流すように、鬼月は微笑みながら淳也にデイパックを渡し、淳也は自分が持ってきた荷物と、デイパックを肩に背負って 走るようにして教室を出た。
 ――――村瀬・・・・――――だた一は消えた淳也の姿に悲しさを感じた。それだけだった。もう、次の人間に一の心は向いていた。
 鬼月は教室を出て行った淳也を見送っていた。「おい村瀬、その先が出口だからな」と、思い出した様に村瀬が走って行った廊下に 呼びかけた。そしてすぐに教室に居る生徒を見つめた。 すると鬼月はみんなに向かって「ああ、そうそう、この廃校も全員が出た20分後は禁止エリアに入るから、 ここから最低でも200メートルは離れてくれよ、いいな」と言った。
 2分後、女子の牧野つくし(女子十九番)も合言葉を言って教室から出て行った。そしてあっという間に、次々にクラスメイトが合言葉を己の口から 発言し、教室を出て行った。一人、また一人出て行くたびに鬼月が教室に残ってる生徒に対し「あいつもやる気だぞ〜」と言った。
 次々にクラスメイトが出て行く中、とうとう一の仲の良い友達の影野樹の番が来た。
 樹は、鬼月が教室に入ってくる前から冷静な顔をしていた。勿論樹も合言葉を 言い、まっすぐ前を見つめて教室から出て行った。そして、次の女子が出て行き、次の男子、神山克人が教室から出るとき、 鬼月が克人にある事を言った。
 「神山くん、君には期待してるよ〜。なんたってお前に金賭けてるんだからな。必ず優勝してくれよ。頼むぞ」
 神山は鬼月を睨みつけながら教室を出て行った。はっきり言って、一は泣きそうだった。精神も不安定だろう。いや、何よりも不安が大きかった。薄暗い 森で一人取り残された迷子の子供の様に。 そして自分はこの廃校から出たらどうしようかと。やはり生きるためにクラスメイトを殺すのかと・・・。
 神山に続き、どんどん教室に居る生徒が減っていった。次に、他校の不良も手を出さないほどの悪で、喧嘩も一流な 木山誠治(男子六番)も、いつも無表情な寺島留美(女子十四番)も 寺島率いる不良グループと対立する、正統派不良グループのボス、椎名瑞希(女子九番)も、みんなプログラムされたロボットみたいに 同じ表情で同じ言葉を口に出して教室を 後にした。だが、一には一人だけ妙にいつも気になる人物が居た。
 それは、2,3ヶ月前に突然季節外れの転校をしてきた男子、早名誠(男子十一番)だった。
 転校初日、クラスのみんなが早名誠に注目した。それは、髪はセミロングヘアーで髪の色が紫色。耳にピアス。遠くからは見えないが、 近くに寄ると無数の半生 傷がある。そう、クラスで有名な木山と同じぐらいの不良っぽい男だった。早名誠は、 クラスのほとんどの人と交流がない。だが一部の人には早名誠の性格が分かっていた。 一もその早名誠の性格が分かってる一人で、早名誠の不良のイメージとは正反対で、部活動も真剣にやっていて、悪い事など 一切やってなかったことを分かっていた。ただ、一が驚いたのはある日休み時間の時に 早名誠が、木山のいつも側に居る隣クラス(三年D組)の不良、竹下幸広(たけしたゆきひろ)に、 学校内で有名な転校生狩りをさせられた事があったが、喧嘩なんてやる気のない早名誠に、 一発竹下が殴った時だった。一瞬早名誠の顔つきが変ったと思った時だった。早名誠の、早くて重いパンチが、 竹下の顔の真正面にヒットし、一発で竹下が泣き崩れた。 一が見た感じ、まるであの殴り方は、手加減を知らない、喧嘩を知らない、相手を殺すためのパンチの様な感じがした。殺人パンチ。 まるで軍人。一方殴られた竹下は、 鼻の骨にひびが入ったようで、左目が失明しかけたと言う話を一はクラスメイトから聞いた。 一を始め、その喧嘩を見た後は早名誠に近づく者が途端にいなくなった。
 そんな事を思ってる一を他所に、一が気づいた時は早名誠は既に出て行ったあとだった。夢なら覚めてくれ・・・一は何度もそう思った。ゲーム なんてしたくない。ふと一の頬から一滴の汗が落ちた。

【残り38人】




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