第一部
試合開始
3
健二の怒りに前から5番目の席に座っていた男――――少し不良でありながら、なんだか正統派な感じで女子からも人気が高い、バスケット部のエース、
神山克人(男子五番)が「健二!やめろ!席に着くんだ!」
と、少し焦ったような声で言った。クラスの誰もが克人に視線を送っただろう。いや、中にはじっと神山を睨んでいた人間もいるかもしれない。
そして一もやはり克人の方を見たが、彼はいつもと同じかっこいい顔をしていた。だが、額や顔には
大量の汗が流れていた。あれは部活をやっているときの真剣な表情とよく似ている。今は部活の事など考える余地もないが・・・。
その克人の声に、すぐ鬼月の後ろに立っていた防衛軍兵士達が克人に銃を向けるが、鬼月自身が銃口に手を当てて「まぁまぁそうあせんな。
手は出すんじゃねえぞ、銃がすべてを解決するんじゃないからな・・・」と最後の
言葉が終わらぬうちに、2人の兵士の銃口を両手で下げた。兵士達も
何も言わなかったが、鬼月の言う通りに銃を降ろし敬礼を小さくやると、また姿勢よく立っていた。その鬼月の言葉に少し動揺しているようにも見える。
だがしかし、今の健二には克人の声はもう遅かった。健二はあっという間に鬼月に近づきメンチを切り始めた。一からだと後ろ姿しか見えないが
なにか雰囲気でガンを飛ばしていることが伝わってきた。
「おいコラ、鬼月だかなんだか知らねえがな、てめえゆるさねえぞ!俺たちをこんなところに連れてきて、
ただで済むと思うな!」
健二の言葉に少し腹立ったのか、持っていた優司先生の生首をドアの所に放り投げた。そして鬼月は健二を睨むようにして
「てめえ誰に向かって言ってんだ?あ?
早く席に着け、いいか、ここは俺がすべての権力を握ってるんだ。言う事を聞け」と形相を変えて健二を睨み返した。
「うるせえ!」と、健二は右手のストレートを鬼月の頬に思いっきり当てた。少し鈍い音がしたが、さほど痛くも無いようだった。鬼月の体よりも
健二の方がぐらっとよろめいた。
だが一瞬脳みそが揺れたような感触を覚えた鬼月は、少し笑っていた。喧嘩本能が蘇ってくるように・・・ほほ〜やったね?という感じに。
鬼月は右手をシャツと腰の間に潜り込ませた。そして健二の拳がもう一発飛んできた時だった。
「シュッ」と言う音がかすかに聞こえたかと思うと「ぎゃああ!」と健二が右手を握りうずくまっていた。
見ると健二の右手首はパックリ割れて血が噴出していた。そう、鬼月の手にはコンバットナイフが
握り締められていた。そして次の瞬間、幕は閉じた。
鬼月は手に持っていたナイフを逆さまに持ち代えると、腕を下から上へ、大道芸のような軽い動きをした。
「シュッ」と、またさっきと良く似たような音がした。肉が切れる音。いや、生命が他人によって絶たれるような音。
一瞬にして健二の首からシャワーのような血が噴出した。血はそこらじゅうの床に飛び散り、鬼月も血が顔に付着しないように後ろを向いていたが、
背中のシャツはびっしょり
血で染まっていた。そのまま健二の体がマネキンのようにバタンと倒れた。鬼月は、倒れた健二には目もくれず「ったく、最近のガキは・・・」と一言呟き、
一の方に顔を向きなおした。正確には一度克人の顔を見た後、生徒全員を見渡した。
焦る克人が「健二!」と叫び「きゃあああああああああ」と、女子の悲鳴が教室を埋めた。もう何もかもがおかしくなりそうな雰囲気だ。もうなっている?
へへっ、そうかもしれない。
尚も冷静な顔を鬼月はして、みんなにこう言った。
「はいはいはーい。今からゲームのルールを説明するぞー。下で死んでる奴みたいに俺に反抗してみろ、同じ事になるぞ。
まあ、今から地獄へ行きたい奴は、俺に刃向え、これもまあルールの一つだ・・・」
スッと、音楽のように悲鳴が止み、鬼月の言葉だけが教室に響きわたった。今から"死"についての授業が始まるように。
この時一は、何がなんだか訳がわからなかった。首・・・そして、クラスメイトが殺され・・・。ゲームを自分が?
俺が人(クラスメイト)を殺すのか?
一はただじっと放心状態のまま鬼月の顔を見ていた。それは自分を落ち着かせる為でもあった。――――ルールとは、どういうのだ?
やはり殺し合いでもルールはあるのか?いや、そもそも自分が一体何をしたんだ。――――
少しであるが一は落ち着きを取り戻していた。くそっ!こんな事なら、もっと家でやりたい事をやれば良かった・・・と、
一の好きでもなくやらされていた勉強の思い出が、
なぜかその思い出ばかりが、頭の中から消えなかった・・・。何度も悔やむ一と、もう一人「覚悟を決めた一」がいた・・・。
【残り38人】