BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



  女子達の悲鳴も止み、少しだけ静かになった時だった。廊下から足音が聞こえてきた。みんなその音の方に顔を向けていた。
 「きゅっ、きぃぅ、きゅっ、きぃぅ」
 まるで何かの悲鳴のような音を立てながら、一人の男が教室に入ってきた。
 「ガラガラ」とドアを横開きの扉音と共に、赤紫の目立つ服を着た一人の男と、後ろに黒々したライフル銃を肩に背負っている、専守防衛兵士2人が教室の中に入ってきた。
 赤紫の目立つ服の男はいかにも不良っぽい人柄で、年は25〜6、身長は178ぐらい、耳にピアス、髪は茶色に染めている。その時一は気づいた。赤紫が目立つ服の男も、その後ろに立っている兵士も、 胸に金色の桃が付いていた。まさしく一が生まれ育ち、この国のシンボルマークとも言える、大東亜共和国のマークだった。なぜ金色なのかは一自身考えた事もなかった。いや、考えたくもない。
 「え〜」
 突然赤紫色の服を着た男は、長机とパイプ椅子が置かれている黒板の方に歩きながら言った。いつものE組ならば、ゆーじ先生が立っている所だ。
 「え〜、俺の名前は・・・」
 そしてその赤紫色の服の男は、黒板にあった白いチョークを手にとり、大きすぎるぐらいの字で名前を書き始めた。
 「俺の名前は鬼月英佶(オニツキエイキツ)だ。みんなよろしくな」
 そう言うと鬼月はみんなの顔を見渡しながら「お前ら〜、分かってる奴は多いと思うが、お前らは、今年のプログラムの対象クラスに選ばれたぞ〜」と見下しながら言い放った。
 ザワザワと、その言葉にやはり!という表情の生徒と、え?うそ?という表情の生徒がいた。一は今の言葉で、これまでの謎が全て解けた。
 ここはどこかの島だろう。そして自分達はこれから殺し合いをする。と言う事。次第に一の体が震え始めた。そして鬼月の話は続いた。
 「今からな〜、ゲームの説明をするからよく聞けよ〜、あっそうそう」
 鬼月がそう言うと、後ろに立っていた兵士が廊下に出て、走ってなにかを持ってきた。ガラガラとローラーが付いた衣装ケースを鬼月の側まで持ってくると、すぐにピン、と姿勢を正し、 鬼月の後ろに立った。
 一が見る限りでは衣装ケースは2段になっていて、中には抹茶色の大きなボストンバックが入っていた。その上にのっている黒いビニール袋を鬼月は手に取った。一瞬 2段の衣装ケースに入っているボストンバックを目で数えたが、すぐに止めた。
 「お〜いお前ら、この袋が何か分かるか〜?分かる人は手を挙げていいぞ。頭のいいやつは分かるかもな・・・・正解者にはご褒美を やろうと思ってたのに・・・」
 みんな黙り、鬼月の顔と手に持つ黒いビニール袋を交互に見ていた。一体何が入ってるんだ。なにをしようとしてるんだ・・・。
 鬼月は少しニヤニヤしながら「お前らがここに来る前にな〜、担任の優司先生いただろ?あの先生がな〜、お前らの殺し合いゲームにすごく反対して、俺に殴りかかろうとしたのよ、 いや、一発殴られたかな・・・それでね〜・・・俺キレちゃって〜・・・」と、黒い袋の中から何かを取り出した。
 「こんな姿になりました」と、黒い袋の中からある"モノ"を取り出し、みんなに見せた。
 「きゃあああああああああああ!」や「うわああああああああああ」と、男女の悲鳴が教室中に響きわたった。一も悲鳴はあげなかったが、口が大きく開いた。
 そう、その"モノ"とは、一たち(三年E組)の担任、関優司(ゆーじ)の首から上の部分だった。しかもその生首を鬼月はニヤニヤしながら髪を掴んで持っているのだ。
 一の額に、冷たい液体が垂れるのが分かった。同時に全身に死ぬほど鳥肌が立った。一は少し気色悪いのと、悲しい感情が混じって頭が痛くなった。――――せ、先生なのか?本当にゆーじ先生なのか?―――― そして誰かの吐しゃ物、ゲロを吐く音が聞こえた。
 「てめえ、ざけんじゃねえぞ!」
 瞬間、そう言ったのは鬼月に1番近い席で座る、悪い事が大嫌いで、陸上部で筋肉質な、阿藤健二(男子1番)だった。健二は席から立ち、 鬼月に近づいていった。その時誰もがやろうとしなかった「反抗」が、クラスメイトの目の前で行われた。
 この時何故だか、一はこの後の出来事がなんとなくであるが予測がついた。いや、そんな事ない方がいいのだが・・・。しかし、一の予感は的中した。心の中では 一の良心が「行くな行くな」と叫び健二を止める。だがそれとは全く違う言葉を言う一がいた。この時は、少しばかり自分自身を失いかけていたのかも知れない。  

【残り39人】




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