BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



16

  放送があって一時間あまりが過ぎようとしていた。未だ大きな爆発や銃声は聞こえなかった。下元奈津希(女子十番)は、脅えながらも無理やり 足を進めていた。
 放送で何人もの死亡者が発表され、殺し合いという実感のわかない言葉が、逆に少しだけ自分の今立ってる状況が分かり始めていた。ゲームはクリアすればいい。 だがこのゲームは違う。コンテニューや、セーブはできない。できるのはクリアする事と、ゲームをやめる事の2つ。つまり、クラスメイトを殺すか、 自分を殺すかなのだ。  と、視界にある建物らしき物が立っていた。前方に見えたのは灯台(?)だった。地図を見た限り、灯台らしきものはなかったが、実際目の前に建っていた。
 場所で言うとE=10あたりで、遠くに浜辺が見えた。しかし灯台には変りはないのだが、既にボロボロになっていた。奈津希が思ってる白い灯台とは 違って、古錆びていて茶色く所々灯台の一部と思えるような物が、入り口付近にちらほらと見えた。この灯台は前から使われてない・・・そう 奈津希が予感した時だった。灯台の中から、何か缶が落ちたような音がした。――――誰かいるの?まさか、武藤君?――――
 しかしそこから出てきた姿は、武藤兼光とは全く違う顔の人間だった。驚いた奈津希は、足が震えてその場から逃げようにも逃げれなかった。 入り口から出てきた男は、クラスでも陽気な性格で、椎名軍の椎名瑞希に恋心を抱いてる男、杉孝明(男子十番)だった。
 「し、下元か?」
 見て当たり前の事を口走った孝明は、なにやら挙動不審だった。奈津希を見つめる目は、なにやら変態のような感じに見えた。孝明は 奈津希が両手に何も持ってないのを確認し、「下元、お前武器はなんだったんだ?」と聞いてきた。
 がくがくと震えが止まらなく、心臓の鼓動が壊れそうなほど高鳴っていた奈津希は、聞かれたことがあまり耳に入ってなかった。
 「・・・え?」
 奈津希が聞きなおすと、孝明は一歩奈津希に近寄って来て、「武器はなんだ?」と答えた。
 ああ、ああ、と気づいたように奈津希も「ぶ、武器は、鍋・・・」と答えた。奈津希はクラスでも無口な方で、女子は愚か、男子なんてほとんどと 言っていいほど口を利いた事がなかった。仲のよい女子なら一人はいるが、男子となっては誰もいなかった。ただ、運動神経抜群の武藤兼光には、 積極的に話したりしていて、部活の料理研究部で作ったクッキーなどを、兼光の部活であるサッカー部のベンチや、直接兼光が休憩中に渡す事もあった。 そのときの兼光の顔がとてもかっこ良く見えた。
 孝明はなぜかふんふんと頷くと、少し考えたように言った。
 「下元は料理研究部だったよな。じゃあ鍋はお似合いじゃないか?へへっ、このゲーム中にも料理する気かよ」
 自分の目の前に立ってる男が何を言いたいのか分からない。ただ、その男の目は、自分に危害を加えてきそうな感じに見えた。ぼそぼそと独り言を口にした後、 一歩一歩と奈津希に近づいてきた。――――逃げなきゃ!――――とっさに思ったが、やはり最初の後ろ足が出なかった。震えるまま、 近づく孝明に脅えていた。
 「し、下元、どうせお前も俺も死ぬんだ。や、やらせてくれよ。なぁ」
 驚いた。何?今なんていったの?やりたい?ちょ、ちょっと待ってよ。なんであなたとやらなくちゃならないの?・・・やるって・・・なに?奈津希は驚いたのともう一つ、 まだ自分が処女だった事が頭によぎった。(処女じゃなくてもやる気はないけど・・・)処女をあげる男は決まっていた。やはり武藤兼光だった。 しかし今の状況からすると、こちらが不利なのは当たり前だ。この島にはクラスメイトしかいなく、今この場には、変態と、脅える少女の2人しか いないのだ。どう見ても女が勝つ事は無理だった。銃を持っていない限りは・・・。
 「いいだろ下元・・・やらせてくれ・・・いや、やらせろ・・・やらせてくれ!!」
 次第に変貌していく孝明に更に驚いた奈津希は、やっとの事でなにかの呪縛が解けて後ろ足が踏み出せたのだ。早く逃げなきゃ!奈津希は素早く後ろを振り返り、 駆け足で逃げようとした。
 だが遅かった・・・孝明はすぐに奈津希の体に飛びついてきて、孝明の全体重が奈津希の体に重く圧し掛かった。即座に倒れた奈津希は、必死に「いやぁ!いやぁ!」 ともがいたのだが、男の力には勝てなかった。
 うつ伏せの状態から、仰向けに体を曲げられ、目の前にあの変態顔が飛び出してきた。しかし奈津希は諦めなかった。嫌だ!絶対に嫌!
 必死に服を脱がそうとする孝明に、奈津希は足をばたつかせ、更には脛で孝明の大事な息子を蹴った。思いっきり。
 それが効いた様に孝明は股間を押えて、奈津希から離れると、蹲ったまま震えていた。
 「くそったれ!このアマァ!!」
 喋ってる事と、やってる動作が 合わなかった。今の孝明なら、デイパックに入ってる鍋で殺れる!!と思ったが、やはり人殺しなんかできない奈津希は、とにかく走って逃げようと したのだった。
 しかし後ろから「逃がすかぁぁ!」と言う変態の声が聞こえてきた。奈津希はすぐにそっちに振り向いた。驚く事に股間を押えて蹲っていた孝明が、 なにやら金槌らしき物を右手に持ちながら走ってくるではないか!周りは颯爽と生い茂る草々があり、隠れる建物は見渡す限り、変態の後ろ の建物、錆びれた灯台しかなかった。しかしそちらに逃げて隠れる事は困難だ。孝明と奈津希の距離はおよそ3メートル弱。足もそんなに速くない 奈津希だったが、今は逃げるしかないと考え、必死に逃げた。
 はぁはぁと少し呼吸が乱れるも、後ろを少し振り返ると鬼のような顔をして追いかけて来る変態男がいた。手には金槌と、殺人鬼のような顔をした男が 見えた。このまま走り続けることは無理かもしれない。そう思ったのだが、隠れる所が一向に見えてこない。
 しかも変態との距離は3メートルぐらいしかなく、もう少し距離を離すか、向こうが追うのを止めてくれるかしないと、建物に隠れようとしてもすぐに見つかってしまう 恐れがあった。
 なんで、なんで杉孝明がそんなに変るのか、奈津希には分からなかった。いつもは自分と同じでおとなしく、友達とよく休み時間に走り舞なんかしてて、少し かわいいなぁと思ってた。なのになんでそんなに・・・。このゲームがいけないの?それともあなたの本性?
 既に息切れしてる自分に対して、後ろの変態はスピードを崩さず、徐々に距離を縮めていった。なんで私はこんな所にいてあんな変態に追われなきゃいけないの? なんで私は走ってるの?武藤君!助けて。
 「ドシュ!」
 なにか鈍い音がした。いや、その音は近くでだ。おかしい・・・このあたりに人はいないはず。しかも視界が見えない。ああ、武藤君。あなたに・・・ あなたに会いたかった。私知ってるよ、あなたが私のこと好きじゃないって事。ねぇ、武藤君の好きな人って誰?クラスの中で私より美人の子って、たくさんいるもんね。ううん、私は気にしないよ。でも今だけは あなたと一緒に居たかった。せめて一瞬でもいいから。あなたに・・・殺されたかった。 ・・・なんでこうなるんだろう・・・・・ふぅ・・・・・・また、クッキー・・・作って持っていくね。

 孝明は奈津希と距離を縮めた。いや、既に手の届く範囲まで来ていた。そこで自然に金槌を持っている孝明の手が、走る奈津希の後頭部目掛けて 金槌を思いっきり振り下ろしていた。いや、これほどまでにない力で。何が悪くて何が良いか、今の孝明には全くわからなかった。今はただ、目の前の奴を殺して、犯すだけ。それだけだった。
 振り下ろした金槌は、後頭部の上の辺りにヒットして、目の前の人間が石に躓いた様に転んだ。その瞬間、何か鈍い音がしたと思えば、孝明の顔に 何か水らしきものが飛んできて、顔に大量に掛かった。――――もう安心だ!この女は動けない。犯す――――孝明は血がべっとりついた金槌をその場に捨て、 猛獣が獲物にありついた様に奈津希の体を仰向けにして、焦ったように奈津希のスカートを捲り上げ、更にはその下の物を脱ぎ捨て、自分もズボンを下ろし、 履いていたパンツを脱ぎ、ようやく自分がやりたい事を始めた。はぁはぁと息遣いが荒く、腰を何度も動かしていた。
 静かな島で、一人の壊れた男と、一つの死んだ遺体。

【残り31人】




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