BATTLE ROYALE 外伝

第二部
中盤戦



20

 C=8の集落に着いた佐藤匠、伊藤真司、宇喜多昌二は、1つのある家に隠れていた。今は誰もいないその家は、 幽霊が出てもおかしくない雰囲気を醸し出していた。3人は家の中にある、座敷の居間で体を休めていた。しかし3人とも 手にはそれぞれの支給武器が握られていた。
 真司は考えていた。なにかこの島から逃げ出す方法を。クラスの中でも唯一"パソコン"と言うものを持ってるのは、真司一人だった。 パソコンをあの廃校の中で見た。何やら色々な装置が置かれている所を思い出していた。あれをどうにかすればまず第一関門は突破できる・・・。いや、 こんな島にパソコンなんてあるわけがない・・・大東亜都市でもあるまいし・・・この方法は消されたか・・・となると・・・。
 「おい、何時までこんな幽霊屋敷にいるんだよう・・・」
 そう水を飲みながら愚痴を呟いたのは、野球好きの佐藤匠だった。なにやら不満そうな顔をしている。
 「まて、今考えてんだ。静かにしろ」と、真司がいらだった顔で匠に言うと、慌てた顔をして昌二が割り込んでくる。
 「まあまあ2人共・・・匠君もあと少しの辛抱だから・・・」
 まったく自分の事よりもまず友達の事を心配する奴だな、と、真司は少し横目で昌二を見た。
 「ちぇ、それじゃあ昌二、俺となんかして遊ぼうぜ。なぁ」
 「え、ええ〜・・・な、なにして?」
 2人の話し声で考える事も考えられないと思った真司は、匠と昌二がいた居間から去り、家の玄関付近で立っていた。後ろの居間では、本当に 今プログラムでもやっているのか?とでも思うぐらいに2人の話し声と、時折笑い声も聞こえてくる・・・まったく、暢気なもんだぜと真司は思っていたが、 その2人を暢気にさせたのは真司自身だった。
 この集落を訪れた際、みんなで脱出方法を考えよう・・・そう言ったのは昌二だった。それが一番ポピュラーな考えだ。1人の脳みそより、 3人の脳みその方が、アイデアは断然多い。しかし真司はあえてそれを否定した。いや、まず一人で考えたかった。一人ならいくらでも考える 時間はあったはずだ。しかし本当に一人で考えるよりも友達の前で考えた方が、何故か自信と勇気が沸いてきて、脳の隅から隅までアイデアが出ると考えたからだ。 いや、それもあるが、一人のほうが、言葉に出さなくていいからだ。なにかと3人で話してると、周りにも聞こえる可能性もあるし、 衛星やEMPを使うぐらいだ、必ず俺達の声があの鬼月たちに何かしらの方法で聞こえているはずだ。つまり盗聴か。と言う事はずっと俺達は政府に管理されている、 かごの中の鳥だ。何をしようとも衛星で見える・・・いいや、俺達3年E組は不登校の吉口を含めて40人いるんだ、そこまで一人一人の行動は管理できないだろう。 あえて管理するなら、なにか不信な言葉を言った奴の行動を"監視"するだろう。そしてなにかまずい事をされれば首輪を爆発させるって訳か。よし、今できる事を 俺達はやるしかない。
 さて、何から始めようか・・・考える時間はたっぷりある・・・訳でもない。誰が何時襲ってくるかわからないし、この集落が禁止エリアなる可能性もある。 時間は早ければ早いほうがいい。しかしパソコンはこの島に本当にないのだろうか?島の住人の中ですごくお金持ちで、最新の機械を持ってる所・・・ あるわけないか。
 となればこの島からの脱出方法は、あの廃校を出る前に見た、教室の中にあったあの機械を壊せばいいんだな。壊すには実際あそこに行って直接破壊する方が 簡単なのだが、鬼月が言っていたようにあの廃校は今、200m内に入ると首輪が爆発してしまう。もし廃校に侵入できたとしても、あちらの専守防衛軍兵士は 装備が整っているし、銃の撃ち方などすべて一流だろう・・・。となるときついな。あとは逆にこの首輪を外す事ができるならなにかいいアイデアが浮かぶのだが、 首輪の外し方は分からない。(実際家にあった手鏡で首輪の構造を見たが、なにがどうなってるのかも分からず、なんの解決もならなかった)
 こんな事ならもう少しプログラムについての裏知識を蓄えておくんだった。毎日サッカーなんてやらなきゃよかった。そう言えば昌二は いつも剣道部で転校生の早名が強いとか言ってたな・・・ん?何でそんな事を考えてるんだ?考えを振り出しに戻さなきゃ、今はなんのいい脱出方法も 浮かんでない、すべて失敗に終わりそうなものばかりだ。
 廃校を爆発できればすべて問題なしだ。でもその爆発方法や物がない。逆に手榴弾などの爆弾だと、200mまで届きやしないし、もし届いたとしても 手榴弾の発火時間が短すぎて、廃校に投げ込まれる前に空中で爆発してしまう。風向きが鬼月のいる廃校に吹いてれば、ダニやノミを使ってウイルス菌を送って 中の奴らを苦しめ殺すことができるかもしれない・・・それじゃあ一生廃校には近づけないか・・・。どうしようか・・・。
 真司は目を瞑り精神を集中した。このまま思いつかなかったらどうしようかと思うと、汗が無常にもだらだら垂れてきた。核爆弾を作るにも材料や、 知識がない。廃校に近づくにも首輪の外し方が分からない。パソコンをやるにも、この島にはパソコンがない。
 「なにか思いついた?ねえ真司・・・みんなで・・・みんなで考えない?」
 ふっと真司の焦りを消したのは昌二の声だった。昌二はさっきまでいた居間から、真司が立ち尽くす玄関付近にいた。変な意味ではないが、昌二はなにか人間を癒す力を持っていると真司は思っていた。その一言、 昌二のその一言が真司には深く、深く心に響いた。改めて仲間というものの大切さが分かった。
 「みんなでか・・・そう・・だな」
 自分が作り笑いをしているのが、昌二にも匠にも分かったと思った。笑いたくても笑えない、こんな状況・・・最悪の状況。真司は決して 自分を見失わないようにと頑張っていた。狂えばいっかんの終わり、やはり一人で考えるのはよそうと、昌二と一緒に匠が待ってる居間へと足を運んだ。
 居間では匠が暖かい目で、真司を手招きしていた。
 「おい、早く来いよ」
 この家に来た時のように、居間にまた3人が座り、少しの沈黙をおいて昌二が喋りだした。
 「真司・・・真司が考えてる時に、僕らも一つ考えたんだけどね・・・」
 昌二がもじもじと答えようとしたが、匠がそれをはっきりと言った。
 「真司、お前がいいアイデアが思いつかなかったのは見てても分かった。だからもう・・・やめないか?脱出方法」
 「な、何言ってるんだ!?お前ら諦めるつもりかよ!」
 真司の少し怒鳴った声が家の中に響いた。
 「俺達は戦わなきゃだめなんだよ・・・きっと。これ、運命なんだよ。真司。殺し合おう・・・今すぐって訳じゃない。 俺達でみんなを殺すんだ。そして最後に3人生き残った時に、3人で最後の決着をつける・・・これでどうだ」
 な、なにを言ってるんだ?真司は驚きのあまり眉を歪めた。結果的に殺しあうと言う事じゃないか、それじゃあ鬼月の思い通りだぜ。真司は 諦めなかった。いや、この3人で殺しあう事なんてできない。真司は2人の顔を真剣に見ながら言った。
 「匠、昌二、 お前らの考えはある意味あってる。しかし俺は賛成できない。反対に自殺をしようとも考えていない。俺は俺がやれるところまで やる!たとえどんな危険を冒してでも、みんなで脱出する方法を見つける。必ずな・・・」
 最後の言葉の『必ずな・・・』には自信なかったが、 ここで諦めてはだめだと真司は必死で心に誓った。
 真司の言葉を聞いて、匠と昌二は顔を見つめあった。それから下を俯き加減に匠が言った。
 「そうだよな・・・俺達間違ってたよ・・・なんか知らないけど真司を疑ってた。いや、真司だけじゃない・・・昌二も。 今考えると答えがはっきり出たよ。俺も真司と一緒に脱出方法を見つける」
 昌二も頷いて言った。「うん、真司、やろう。考えよう。みんなで」
 まるでドラマを見てるようになった真司は感動していた。友達。それが今の真司には自信と勇気にもなった。いてよかった。こんなに信じれる友達がいてよかった。
 真司はすこし深呼吸をすると、「脱出方法はたくさんあるが、どれもこれもだめな案ばかりだ。しかし1つだけおよそ0.1%の確率でできそうな 方法はあるんだが・・・」と自信なさそうに言うと、思ってもいなかった答えが返ってきた。
 「真司・・・それはパソコンでしょ?」
 昌二は分かってたらしく、真剣な顔つきでこちらを見ていた。「な、なんでわかったんだ?」と真司が疑問を抱くが、昌二は顔つき1つ変えることなく、 「真司のことだから分かってたよ・・・」と昌二は匠の顔を見て頷いた。匠もなにか分かったという感じの顔をしており、真司に問い掛けた。
 「そのパソコンは大体何処にあるか分かるか?」
 2人の意外な言葉に戸惑いながらも、「いや、パソコンは貴重なものなんだ。何処の家庭にもあるわけじゃない。 大東亜都市なら幾つもあるが、ここは島だ。交通手段が船ぐらいのところにそんな物はないだろう。しかし、あの鬼月がいた廃校で、出口から見えた教室 にもあったように、大きなパソコンや訳のわからない装置があっただろう?あれはきっと俺達を管理する為の物なんだ。 だからパソコン、それからどこかに自家発電の家・・・いや、建物でもいい。それがあればその装置や、その他のものに誤作動を起こす事が低い確率だが、可能だ。 それからこの首に巻いてある首輪をぶっ壊すか、いや、壊せないかもな・・・でもそれでも首輪が爆発する事はまず消える。あとは あの廃校に爆弾を仕掛けるか、浮き輪代わりのもので、海に逃げる・・・あとは俺も自信がないが、廃校に止まってるヘリを動かして逃げる・・・。 しかし肝心のパソコンが見当たらない。きっとこの集落を探してもそうそう見つからないだろう。パソコンがありえる所は 農協の事務室・・・あたりか・・・。真司はあまり思いつかなかった。安心なのかそれとも不安なのかは分からない。とにかく 今考えれたのはそれだけだった。落ち着かない・・・それが一番の問題だった。
 「よし、探そう・・・。農協へ行こうぜ」
 そうやって元気に笑顔で、真司に語りかけたのは匠だった。励まされたように真司も笑顔を作った。昌二もなにやらニコッとした。
 今やれる事。真司は無駄な事をあまり考えないようにした。まっすぐ、まっすぐ前を見る。
 「ああ・・・。よし、じゃあ行こう」
 真司を始め、あとの2人も荷物を持ち、居間から玄関に向かおうとした時だった。
 「ガタン」と「くっ!」という音が、3人の安心感をいきなり切り裂くように、玄関の近くでした。――――誰だ!――――真司やあとの2人にも緊張が走る。 実際玄関で物音がするのはこの真司達がいる家に入ってきた証拠だった。この家に入ったすぐ後に、誰かが来た時に気づくようにと、 匠が家のいろんな小物を玄関のそばに置いたのだ。そんな物には引っかからないと真司は言ったが、ないよりはましだろうと、匠は胸を張って言っていた。 それが今引っかかった奴がいるのだ。
 真司達は手に持っていたそれぞれの銃を玄関に構えた。どんな敵か、そして匠の作った在り来たりな仕掛けに引っかかった馬鹿面を見る為、 玄関を三角形にして囲むように、正面に真司、左手に昌二、右手に匠と、銃を構えて立っていた。そして玄関に佇む人間に声をかけたのは 匠だった。
 「だれだてめえ!手をあげろ!」
 

【残り29人】




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