BATTLE ROYALE 外伝

第一部
試合開始



17

  一生懸命奈津希の胸や、時折唇に口付けをする孝明だが、そこに忍び寄る日本刀を持った殺人鬼には気づいてなかった。
 山本正樹(男子二十番)は、孝明と奈津希の一部始終を見ていた。既に廃校を出る前から狂ってた正樹は、 廃校を出るとすぐに支給武器を見た。武器は日本刀だったが、正樹は日本刀かどうかも分からず、ただ刀だと思っていた。
 正樹の目的は"ただ人を殺す"と言う事だった。優勝できるならしたいが、そんな思考神経があまりなく、狂った正樹には、 ただ無差別に人を殺すことで頭がいっぱいだった。この、刀で・・・。そして廃校を出て歩き回った正樹だが、会ったのは石上晴香の死体だけで、 あとは誰にも出会うことなく今まで歩き続けたのだ。途中喉が渇いて水を少し飲んだが腹は空かず、武器の刀と、水一つを除いては、 廃校の近くにすべての荷物を置いてきたのだ。今、ズボンのベルトの間に無理やり水のペットボトルが挟まっている。 見るからに一部膨らんで歩き辛い。
 廃校の教室で優司先生の生首を見てからの正樹は、ホラーマニアから殺人鬼へと変身しようとしていた。プラス、鬼月先生とは気が合うと思っていた。 ――――この島には俺が求める ホラーコレクションがたくさんある。たくさんグロテスクが見れるって事だ。しかもまじかで。なんどもホラー映画やスプラッター映画を見てきたが、 これほどまでに実際に体験できる機会はない。命なんかどうでもいいぜ。いろんな奴が合法で殺せるならな!!へへへ――――
 正樹が今さっき灯台近くで、人間二人がいるのを発見して走って駆け寄ったが、1人女のようで殺されて死んでいて、もう1人は男のようで、 狂った血の付いた顔の"生きている"人間を発見した。
 正樹は、頭がカチ割れ、中からどろどろした朱色の"物"がでて死んでる下元奈津希が目に入った。しかし正樹は自分が殺った訳ではないので、 そんなに興味を示さなかったが、その死体の上に乗っかり、腰を何度も動かす男に視線を向けていた。確実に近づく正樹対して、 孝明はまったく気づいてなかった。
 「ザッ」と無理やり正樹は草を踏み、大きな音を出した。するとそれには気づいたらしく、孝明は腰の運動をやめ、正樹の方に振り向いた。 一度振り向き、もう一度振り向いて、正樹がいる事がわかったらしい。孝明は驚いて脱いだパンツを履き、落ちていた金槌を拾うと、 正樹に向かって仁王立ちをした。なんともまあ変態らしいカッコだ。
 「山本かあ!てめえ、邪魔すんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!」
 正樹は孝明の暴言に怒ることなく、逆に笑い、ニヤニヤし始め、ある事を喋りだした。
 「・・・へへへ。それでこそ殺し甲斐があるって奴だ。アメリカにいた有名な殺人鬼医師バルザック・エイバーを知ってるか?エイバーは俺達にとっては偉大なる人間だ。 『死こそ人間の価値が出るもの』といい、人間のすべてを知り尽くした最強で最高の謎の男だ。そのエイバーが捕まった時があったが、なんとエイバーは 洗脳の天才であり、周りにいた警官をすべて自殺させた。それからエイバーはどこかに逃げたんだ。 そして実際に、ホラー映画にもなった『ドクター殺人鬼 エイバー』の中のセリフでも言ってたように、死ぬ奴は必ず 殺人鬼に反抗して死ぬ奴と、脅えながら死ぬ奴の2つがあるってな。そう、今お前は脅えながら死ぬ。この俺に一瞬でな。・・・心配するな、 殺したらお前を俺のホラーコレクションに入れてやるからよ。ハハハッ」
 孝明は少し脅えたようにも見えた。目の前にいる敵は、自分のお楽しみを邪魔するごみだ!邪魔する奴は友達や家族であろうとゆるさねぇ。 てめえを殺してやる!
 孝明もまた、体からアドレナリンが大量に出て、更に変態の原型をとどめ始めた。
 そしてここに、変態と殺人鬼の争いが始まった。いや、狂った人間同士といっても過言ではなかった。
 最初に戦闘を仕掛けたのは孝明で、金槌を横に振り、正樹の頭を狙ったが、正樹は刀でそれを止めて「キィン」と良い音が響いた。しかしそれだけで、 戦闘はすぐに旗を揚げた。
 止められた金槌は同時に孝明の手から落ちた。余裕の正樹はとどめと言わんばかりに、孝明の腕にむかって刀を振り下ろした。
 思った以上にスッパリ切れ、まるで包丁でトマトを切るように簡単に孝明の右腕が切れた。そしてトマトを切ったように、中から赤い汁が出てきた。 いや、シャワーの様に出てきた。
 「ぎゃああああ」と孝明は醜い顔をして、分離した右腕あたり(すでに腕はないので)を押えた。すっぱり肩から腕がなくなった孝明は「ちょっと 待ってくれよ!た、助けて!」と、言いたかったのだろう。助けての、"たす"までで、孝明の声は止まった。正樹がバットを振るように、孝明の首に向かって 振った刀は、風の抵抗もなく思うが侭に孝明の首を捕らえた。「ズリッ」という音が正樹には聞こえたが、既にその時、孝明の首はなかった。
 バットとボールのように、バットは首にヒットし、首から上は凡そ3メートルほど先の草木に落ちた。孝明の体は、その首から上を探すように手を前に出したまま で、バタンとその場に倒れた。ドボドボと、大きな口のボトルから流れるように血が草や土に吸い込まれていったが、草も土もこれ以上は無理だ、と言わんばかりに、 正樹の足元で浅い血の池ができていた。ここは地獄か?ある意味そうかもな。そして孝明の体のすぐ隣では、犯されるために作られた人形に様に、 手足をぴんと伸ばした下元奈津希の死体があった。
 刀についた血を飛ばす為、刀を大きく振った正樹だが、ここであることに気がついた。一回、たった軽く一度刀を振っただけなのに、 付着していた血が綺麗に無くなっているのであった。いや、違う。振る前からだ!!そう、刀が血を吸ってるのだ。これは普通の刀じゃねぇ。 俺のための刀、俺の分身の刀だ。つまり、妖刀村正だ!人を斬る為だけに作られた刀!!へへへ、いいぞ、いいぞ、この妖刀村正、もっと血を欲しがってる様だ。
 正樹の勘違いなのか、それとも本当なのか。正樹が足元にできた血の池に、刀の先を浸すと、見る見る内に血がなくなっていった。
 それから飛んで行った孝明の頭を拾いに行く為、ピチャピチャと孝明の血の池を渡り、さらには片腕がない孝明の体の上を踏み進み、孝明の頭を拾いに行った。
 正樹は孝明の頭があるところまで行き、髪の毛を片手で掴むと、まじまじと眺めた。それから2つの死体に正樹は言った。
 「安心しろ。お前らは俺のホラーコレクションに入れてやる」

【残り31人】




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   了

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